05
さて、宙吊り状態で連行された女――名前は、己を取り巻く事態に混乱して、悲観して、憤怒して、そして諦めた。自分の力ではきっとどうにもならない事態に巻き込まれているのだと。

「いつまで続けるんですか、この問答…」

「ぬしが有りのままを答えればそれで終いよ」

「だから話してるでしょう。それ以外には答えようがないです」

「それは困ったコマッタ。われもそろそろ飽いたところよ」

困った、と言いながらその実まったく困ってなさそうな様子だが、飽いた、というのはどうも本心らしい。部屋の中の空気が一瞬冷たいものになり、名前の脳裏に死が過る。もちろん死にたくはないが、こればっかりはどうしようもないのだ。

「おぉい三成、徳川の間者がここにあるぞ」

さも楽しげな、誰かに呼び掛けた吉継の声に反応して響いた声は荒い足音とともに名前の耳にも届いた。

「おのれ家康ぅぅぅ!」

「…上々よな」

足音が近付くにつれ、名前の背筋にうすら寒いものが走る。もしかしなくても、トクガワのカンジャ、というのは。

バン!と大きな音を立てて開かれた襖とともに飛び込んできた一人の男。刃物のように鋭利な人物がギリッと名前を睨みつける。

「刑部、これが家康の」

これは、殺されるパターンだ。名前はどこか他人事のように心の中で呟いた。けれど、憎しみのこもった黄金色に貫かれた一瞬、不思議な感覚に襲われる。どこかで、これと同じような体験をしたような、そしてそれは別段命の恐怖を感じることではなかったような…そんな気がしてならない。
その証拠に、彼女を切りつけにやってきたであろう男はピタリと動きを止めてしまった。

「三成、どうした」

怪訝に思った吉継が尋ねるが、男は名前を見つめたまま動かない。
ふと、名前は気がついた。それと同時に呟いていた。

「御犬様、」

いつぞか倒れていたあの御犬様も、そういえばこんな鋭い黄金色の眼をしていた。動物の目と人間の目を似ていると感じるのも可笑しな話だが、彼女の中には妙な確信があった。
これは、あの時の状況に似ているのだ。ただ、あの時と違い彼は人間であるし、別段死にかけているわけでもない。

「なに?」

そして何より、第三者がいた。





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