「名前ちゃーんっ」
「やめろキモいマジで離れろ」
「またまたぁ」
隙なんて見せてるつもりはないのだけど、いつの間にかわたしは変態迷彩男の腕の中にいた。
この行為、雇われ初日からずっと続いている。抱き着くことで不審なものを持っていないか調べるためかと思いきや、そうでもないらしい。
「暑苦しいんですけどー」
「鳥肌たってるけど?名前ちゃん」
「そりゃアンタが気持ち悪いからに決まってるでしょ!」
俺様心外ーなんて言ってるが、心外もクソもない。
わたしだって別にこの変態男…もとい佐助が嫌いな訳じゃない。むしろ好きな部類に入る…というか、実はうっかりちゃっかりそういう仲だったりする。ただ、上田城での仕事中にこんなことしてると………
「佐助ぇぇぇえッ!!!!」
「ッたあ゛ーっ…ちょっと旦那!俺様あんまり丈夫じゃないんだけど」
「どうでもいいですがわたしの近くで危険行為は止めてください」
あろうことか、どこからともなく現れた(いつものことだ)真田様は鍛練用の木槍を投げつけたのだ。もちろん柄の部分を、だけど。
佐助はともかく、わたしにあたったらどうするつもりだったのだろう。
「で、佐助に何かご用でも?」
「えー?俺様今から名前ちゃんとイイトコなんだけど?」
誰がじゃオイ。反論したい気はあるが、こういう時の佐助は無視に限る。
ほら、ちょっと拗ねた。
「…はっ、」
あ、やべ。多分くる。
耳栓用意。
「破廉恥でござるぅぅぅぅうぅぅぁぁあああっっっ!!!!!」
ほらね。
こうなると思った…
「旦那もそーゆうコト、いい加減済まして貰わないとねぇ…」
「…敵が色仕掛けで来たら終わりよね」
「そっ!」
はぁ、とため息を吐いた佐助に対しわたしはふと名案を思い付いた。
「わたしが鍛えてあげようか?」
「ダメ」
ちっ。まぁ冗談だけど。
「実践積むのが一番早いんじゃない?」
「名前ちゃんはダメだって。あ、」
なに、と視線で聞けば佐助は厭らしい顔で「いいこと思い付いた」なんて。
そんなの絶対ロクでもないことに決まってる。
「わたし、パス。他人の情事とか見たくないし」
「触発されるから?」
「死ね変態猿」
これだから馬鹿は困る。
そんなヤツに惚れてるわたしも相当な馬鹿だとは思うけれど。
END