03
混沌としていた意識は突如として消失し視界が明るくなる。己の生命が澱んだ三途の淵を漂っていたと聞き、三成は自分が黄泉の國より舞い戻ったことを知った。
そう、あれは正しく黄泉の國。柔く暖かに己を包んだもの。それは彼がこの世に生を受けて以後体験したことのない安らぎだった。その時初めて、畏敬の人、豊臣秀吉から赦しを得ることができたのだと感じた。もうこれ以上失わなくていい、奪われなくていいのだと。けれど。

「三成め…身体は戻ったが魂はどこぞに置いてきやったか。ぬしが守らねば太閤の遺したものはどうする」

彼の友人でもあり右腕でもある大谷吉継が苦言を呈するも、三成はいまだ心此処に在らずといった様子であった。
これでは不幸の種をいくら蒔こうとも芽吹かない。いや、この現状こそが三成にとってもそして吉継にとっても不幸なのだろうが。

「大谷さま、少しお耳にいれたき事が、」

闇が、陽炎のごとく揺らめいたかと思えば部屋の隅には人影が潜む。吉継がそちらに意識を向けると見計らったように落とした声が囁く。曰く、侵入者がある、と。

「面倒な…三成に刻まれる前に隠せ、と言いたいが…」

どこの勢力とも知れないが、忍であればその口を割ることは容易くはない。

「構わぬ。われが迎えてやろ」

使者でなければ徳川の間者とでも嘯けば三成も反応するだろう、そう吉継は考え侵入者の元へ向かっていった。

「私はもう…秀吉様の元へはいけないのか…まだその時ではないと、そう仰るのですか…!」

一人残された部屋で、届くはずのない主への問いかけだけが静かに響いていた。





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