02
そこから先はもう、何か大きな力に突き動かされていたとしか思えないような行動力だった。助手席のシートが濡れてぐちゃぐちゃになるのもお構い無しで御犬様を抱き抱えて運ぶ。
お風呂に入れて温めてあげた方がいいのかとも思ったけれど、体力が弱っている時にお風呂はきっとキツい。まずは乾かして保温、といったところか。頭の中で次の行動をイメージしながら車を走らせる。我が家まで、そう遠くないところまでは来ていた。



結果論でいえば、御犬様は天に召された、と思う。何故言い切れないかというと、理由は明白。遺体が消えてしまったのだ。



我が家まで連れてきた御犬様を精一杯介抱したが、明け方近くか細い声でひとつ鳴いたかと思えば御犬様はそれきり息をしなかった。
つん、とつついてみても反応はない。嘘だ、信じたくないと思う反面あぁ、駄目だったかと静かに悟る。
帰ってきてそのまま付きっきりだったのでシャワーでも浴びてこよう、と浴室へ向かい数十分後には御犬様の姿がなかったのだ。息を吹き返して出ていったのかとも思ったが、歩き回った痕跡はない。もちろん、外から誰かが入ってきて連れ出したとも思えない。なまじ御犬様と呼んでいたために神格化された、わけもなし。気にはなるけれどもそればかり考えているわけにもいかないのが現実で。
数時間後に迫った出社時間に追われるように、この摩訶不思議な出来事は日常へと溶け込んでいった。






prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -