01
「うわっ!?」

いつものようにぼんやりのんびりと運転していたらば視界に見慣れない白が飛び込んできて思わず変な声が出た。まぁ、車の中で一人きりなので誰にも突っ込まれずには済んだのだけれど。だけれど、だ。
異動で僻地へ来てしまったために勤務先から自宅までは結構遠い。人通りの少ない通勤路とはいえ、何が飛び出してくるか分からない。特に雨の日は視界も路面状態も良くない。だからいつも運転中はスピードを出さないようにしているのだ。

「わ〜…いや、あれ、何…?」

そういうわけで地面に転がっている白い物体が、何らかの生き物であるだろうことが予想できたというわけだ。
田舎の山道、と言えば典型なのかここいらの道路はことごとく一車線だったりする。ガードレールがない、外灯がない、なんてものは数えていけばキリがない。つまり、何が言いたいかというと。

「これは完全に…通れません、的な…」

そう、通れないのだ。広くはない道幅に、でーんと横たわる生き物。まさか轢くわけにもいかず、脳裏を掠めるのは『道路に異常があれば連絡を』と電灯掲示板で流れている数字。とは言え、今から連絡して対応してもらうのにどれだけの時間がかかるのか。
さっさと家に帰ってお風呂に入りたいし…と頭の中で算盤を弾く。

「…あー、仕方ない」

少し、寄っていただこう。仏さまに手をあわせてお断りすれば、まぁ祟られることもないだろう。ありがたいことに降り続いていた雨も小雨程度には弱まっている。
車から降りて近づけば、倒れているのは犬のようだった。雨水で汚れてはいるが、元は真っ白い毛並みの御犬様だったのだろう。ナンマンダブ、と心の中で呟いて後ろ足を掴んだ、ら。

「っんひゃぁ!?」

その瞬間に御犬様の身体がビクリと動いてまたしても変な声が出た。咄嗟に掴んでいた足をパッと放して距離をとる。恐る恐る御犬様の顔を見て、今度は逆に言葉を失った。
夜の暗がりの中でも分かるぐらいに綺麗な黄金色の瞳。その双眸と視線が絡み、一瞬ギッとこちらを睨み付けたかと思えば、すぐにまた気が抜けたように瞼が下がる。
まだ、この御犬様は生きている。生きようとしている。もしかしたら、さっきの一瞬で諦めてしまったのかもしれないけれど。でも。

「大丈夫だから、」

助けなければ。いま、手を差し伸べれば間に合うかもしれない。





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