「あ、あのっよかったら、一度ご飯でも食べにいきませんか!?」
「あー…ごめん、いまちょっと外食は控えてて」
「そ、ですか…」
まただ。
またうまくいかない。もう何度目だろう。いいかな、と思った人には振られ、特別何とも思ってなかった人から好意を寄せられると不思議と嫌悪感が増してしまう。
押して駄目だから引いてみて、それでも駄目だったから押しまくった結果が今回だ。残念過ぎる。
そうして私はその結果報告に来ている。
「(また駄目でした。次こそはいいご縁がありますように…)…よし、」
近所の小さな神社にお参りするのが、ここ数年の私の日課となっている。お参りを始めて持病の喘息をよくなったし、仕事も順調。あとは結婚、と思ってはいるのだけどそればっかりはうまくいかないのだ。
「また来ますねー…」
今度こそは、と何度目かになる決意とともに神社を後にした。
そうして。
彼女が去って薄暗く物寂しい雰囲気を醸し出した境内に、ふと音もなく影が落ちる。
「ヒヒッ!毎度熱心なことよなァ。すべてはぬしの手の内とも知らずに」
「人間が気付く筈もなかろう。気付かれたとて我には関係ないことだ」
「そうか?結婚できぬのはぬしのせいだと知れば、怒りを買うか、元より姿を消してしまうやもしれぬぞ」
人の姿を模してはいるが、人ではない二つの影。人によって神とも鬼とも呼ばれる彼らは、普段人目につかないところに存在している。もっとも、彼らが姿を現したとして、それを目にすることができるのはごく一部の限られた人間なのだが。
「あるいは独りぼっちの己を憂いて命を絶つやもなァ」
朱い影が愉しそうに笑う。その声に反応して闇の中で蝶が蠢いている。
「天寿を全うせずにはこちらに来られず…ヒヒッ、さて、ぬしはどうする」
「貴様に教える義務などない。元よりあれは我のものよ」
そう、碧の影が音を響かせる。いつの間にか朱い影の作り出した闇夜の蝶は消えていた。変わりに姿を現した陽光は眩いばかりの光で降り注ぐ。
「日輪より賜りし献上物よ」
「贄と知らぬは己のみ、とはなんとも愉快なことよな」
暫くすると、辺りはまた静かでほの暗いいつもと代わり映えのない神社へと戻っていった。そこにはもう、妖しく潜む二つの影はどこにも見当たらなかった。
END