真っ暗な闇の中で、そっと何かがわたしに触れた。何だかとても寒い。もうずっと動いていないような、そんな錯覚に陥る。
「起きよ。ぬしに永劫の休息は早かろ」
暗闇のなかで響いたのは聞き覚えのある低音だった。そう認識したと同時にカラダがほかほかと暖まってくる。
「ギョウブ…?」
「起きたか」
どこかすっきりしない頭で辺りを見渡せば、半兵衛様と三成さんもいる。まぁ、ギョウブがいるということはイコール三成さんも、なんだけど。眩しいと感じたのはギョウブのライトが直に当たっているからで、暖かいのはギョウブの…
「えっ!ちょっ!?な、ななな何やってんの!?これどういう状況!?」
わたしが慌てるのも無理はない、と思ってほしい。何故って、ボンネットはお互い全開だし、その、なんというか。わたしたちは繋がっているのだ。ブースターケーブルによって。
「何、ではなかろ。われの力を分けてやっておるのよ」
「いや、まぁ、それはよくわかったけど…」
わかったけど、だからって、よりによって半兵衛様の目の前で!
「うぅ…辱しめられた…!」
「ヒヒッ!何を女子のような。ぬしのソレをみて昂るような者はここに居らぬ」
「いや、そうじゃなくて…もう、なんかいいや」
わたし的にはこの薄汚れた部分を見られたくなかったわけであって。はい。更に言えばバッテリー上がりなんていう自分ではどうしようもない事態になっていることも拍車をかけて情けない。
「廃車を免れただけでも良かろ?」
「うん、まぁ、そうだね…」
確かに、あの超絶面倒臭がりの半兵衛様が動かなくなったわたしに対する処置としては意外だった。使えなくなれば即廃車、そんなイメージだったから。
「三成さんが提案してくれたのかな?助けてくれたお礼、伝えておいてね」
わたしの勝手な見解ではあるが、半兵衛様が三成さんに助けを求めた、というのは想像しづらい。それよりかは、愚痴った半兵衛様に自分が何とかできます!と宣誓する方が三成さんらしい。
「面倒な…全くもって面倒な…」
もう十分だと伝わったのか、いつの間にやら三成さんはブースターケーブルを外してボンネットを閉じた。
「ギョウブもありがとう。あとどれぐらい走れるかは分からないけど、これからも宜しく」
「やれ、ぬしも物好きよな。構われるのもあと幾日か」
「…縁起でもないこと言わないで」
「なに、冗談よ」
わたしたちが軽口を叩いている間に処置は終わったらしい。半兵衛様に深々と礼をして颯爽とギョウブに乗り込み、三成さんは去っていった。相変わらずスタイリッシュなお方である。
END