バッテリーあがり
「三成くん。そろそろ出ようかと思うのだけど、大丈夫かい」

「はい。すぐ車を回してきますので、半兵衛様はここでお待ちを」

「あぁ」

三成くんに声を掛ければタイムカードを退社で打刻し出ていったが、恐らくまた戻ってきて仕事をするのだろう。彼はとても優秀だが、些か仕事人間過ぎる面がある。まぁ、自分もあまり人のことは言えないのだが。

「半兵衛様、お待たせいたしました」

本革のネームプレートを外し三成くんとともに車に乗る。いつだったか彼女が絶賛していたこの車、吉継くん、だったか。職場のデスクもそうだが、車内には装飾だとかあったら便利そうなものすら見当たらない。運転に必要最低限なものしか乗せていないのだろう。

「…三成くんらしいね」

「?」

「無駄なものが何もないなと思ってね。ジャズが好きなのかい?」

静かに走り出した車内に響くのは心地よいジャズ。滑るように走行するこの車の乗り心地は悪くない。

「いえ、刑部の趣味です」

「へぇ…車内も綺麗にしてあるし、車が好きなんだね」

「はい。刑部は私の愛車です」

ゴフッと小さな音が漏れたが、エンジンか何かに支障があったのだろうか。三成くんは平然としているから問題はないのだろうけど。

「あ、その電柱のすぐ側を右折するんだ」

「はい、ここですね」

僕の車のギリギリまで近付け停車する。互いのボンネットを開けたり妙なコードを取り出しつつ作業を進める三成くんを感心しながら見つめる。

「それはいつも積んであるのかい?」

「はい。これを接続して、充電します。走れるようになれば少しの間走行してください」

なぜ、と聞く前に三成くんは愛車に乗り込む。かと思えば吉継くんが大きな音で唸りをあげた。先ほど静かに走行していた姿からは想像できない荒々しさだった。

「半兵衛様、御車に乗車する許可を私に、」

「あぁ、よろしく頼むよ」

「はい!」

何も知らない人から見ればなんの儀式だと眉を潜めるだろうが、これは最早僕たちの日常である。三成くんは早速僕の車に乗り、エンジンをかける…と、かかった。今朝何度やってもかからなかったのに、だ。

「流石だ、三成くん。感謝するよ」

「半兵衛様のお役に立てて何よりです…!」

さっとその場を片付けて帰る三成くんは恐らく仕事に戻るのだろう。さて、僕も数日振りの運転をするとしようか。




END


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