寒い、とても寒い日が続いた。半兵衛様はお出掛けになられていて、わたしの世界は静寂に包まれていた。そのうち緩い睡魔に誘われてふっと、気を抜いた。
休み明けには仕事だろうから、きっと半兵衛様に会える。そのときまで少し休もう、ほんの、少しだけ。
「…うん?」
寒い、とても寒い日が続いた連休だった。いつものように出勤しようとエンジンをかけた、つもりがかからない。何度やっても同じだった。
「どこか調子が悪いのかい?」
「………」
そう、声をかけても返事がない。独り言ですらいつも律儀に返事をしていたのに。
ちらりと時計を見て溜め息を吐く。エンジンがかからないのは気がかりだが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「はい、日輪ハイヤーぞ」
「あぁ、毛利くん。すまないが1台お願いできるかい?場所は…」
エンジン稼動不可
(原因解明をお願いします)
日輪ハイヤーのお陰で無事に出社することはできたが、知らず知らずのうちに溜め息が漏れる。
「そろそろ替え時なのかなぁとも思うんだけどね…」
「っ!そう、ですか…」
朝の出来事を振り返りながら三成くんにぼやけば、いつもの彼らしからぬ歯切れの悪さ。どうしたんだろう。
「何か言いたそうだね、三成くん」
「いえ…型のわりによく走ると刑部が言っていたので。半兵衛様の整備の賜物かと」
刑部、というのは三成くんの愛車で渾名みたいなものだ。誰か名付けたのかは知らないが、本名は吉継というらしいので僕は吉継くんと呼んでいる。
「へぇ、そうなのか。まぁ使えるのなら使っていきたいとは思ってるよ」
「半兵衛様、もしよろしければ私に車を見せていただけませんか。バッテリー上がりであれば対応することができます」
「お願いできるかい?とは言っても自宅から動かしてないのだけど」
「では半兵衛様のご自宅までお送りいたします。お帰りの際は是非この三成に声をかけてください」
「あぁ、頼むよ。ありがとう」
礼を言った瞬間、お任せを!と勢いよく返事がきたのはいいとして。その従順さをもう少し他の職員や来客者に見せてあげればいいのに、と思わずにはいられなかった。
END