許されない想いだった。
そんなことは、知っている筈だった。改めて念を押されずとも、重々承知している。
『主と親しい間柄になってはいけない』
あの御方に仕える以前から、それはもう暗黙の了解だった。
なのに。
「名は、何というのだ?」
「え?」
いつものように、お団子とお茶を準備しておく。真田さまは定時に甘味を食する。用意さえしておけば、しっかり平らげて下さっているから、また数刻後に片付けにいく。
その日もいつものように給仕を終えて、立ち去ろうとしたのだった。
名、というのは、団子の銘柄あるいはお茶の銘柄だろうか?
「いつも、甘味を用意してくれているのだろう?」
優しく向けられたその微笑みがあまりにも綺麗で、つい見惚れてしまう。
真田さまって、こんな柔らかな表情もされるんだ…
「…?どうかしたのか?」
「いえっ、何でも御座いません!」
あなた様に見惚れてましただなんて、口が裂けてもいえない。
「あの、私の名前などお耳にいれるほど大層なものでは御座いません。どうかご容赦頂きたく……っ!?」
慌てて頭を垂れ、口上するも突然うなじを撫でるような感触に襲われビクリと肩が震えた。
誰に、なんて確かめるまでもなく。
「俺が、」
下半身しか見えないけれど、それは真田さまのお召し物で。
「お前の、」
うなじを撫でていた手がゆっくりと正面へ向かってくる。決してそれ以上奥へと手を進めぬよう、鎖骨の辺りで一度止まる。
早鐘の如く脈打つ心臓が、やけに五月蝿い。
「名を聞いているのだが?名前」
知っていたのか、という驚きの意を持って私は思わず顔をあげてしまった。
そこへ見計らったかのような口付け。
「名前…」
ほら、もう戻れない。許されぬ想いでも、叶わぬ想いでも。
「…あーらら、ちょいとやりすぎたか?」
そんな風、遠くから覗き見る主犯が呟く声はどこまでも楽し気だった。
END