頬が淡く色付く理由

「ふぅ…」

山のように積み重なった書簡を見つめて一呼吸。さて、これらをどう処理していくか。

「名前さんッ!ってなんで無反応なんスか〜」

わっ、と驚かせるつもりで出てきた新参者に先程とはまた違う息を吐く。

「だって左近、君の気配だだ漏れっていうか」

「うぇぇっまじっすか…」

気配を消していても、気付いて気付いて構って構ってと言わんばかりの態度が透けて見えるというの一体どういうことなのか、こちらが聞いてみたいほどだ。

「で、どうかした?」

「へ?」

「いや、用があったんじゃないの?」

「用ってほどのもんじゃないですけど…」

妙に歯切れが悪いその様子に違和感を覚えたのは一瞬で、次の瞬間にはパッと表情が切り替わる。

「あ、名前さんは何やってるんですか?」

「私?私は半兵衛様に頼まれた書簡の整理をしようと思って」

中身は見てもいいものだと言われているので気兼ねはしないが、内容をすべて確認、分類して収納するのはなかなかに骨が折れる作業になるだろう。
さて、どこから手をつけたものか。

「名前さん、半兵衛様とはどんな話してるんですか」

どうしたもんかなぁと頭を捻らせていると、唐突に疑問の声が湧いて出た。

「あ、えっと別に変な意味じゃなくて!」

思わず声も出なくて目をパチクリとさせたまま見つめていれば、焦ったかのように継ぎ足される言葉。というか変な意味ってどんな意味だ。

「どんな話って…こういう雑務を任されることもあるし、女ならではの視点で軍略を相談されることもあるけど…」

「あ、そ、そっすよね〜…はは…」

答えたら答えたでどこか気まずそうに愛想笑い。

「なんで?」

「いや、ちょっと気になったっていうか…」

「何が?」

「だから、その…あーもう!察してくださいよ!俺より頭いいんだからさぁ!」

頭の良し悪しは関係なくないか、と思いつつ彼の様子を観察して考える。知識や知恵よりむしろ経験則として導き出される答え。

「私の言動に、興味がある?」

「あー…間違ってはないんだけどもうちょっとこう、ほら!」

「さすがにそれで察せよと言われても難しいけど?」

何か、言い方が不味かったのかとも思ったけれど根本的にそういうことではないらしい。言いづらそうに頭をガシガシと掻き目が合ったかと思えばパッと逸らされる。これは、いや、まさかね。

「まぁ、とりあえず急ぎの用事ないならこれ手伝ってくれる?」

「へ?あ、そりゃあもちろん…」

「ん、ありがとう。早く終わったら城下で一服しようか」

手元の書簡に目を落としつつ提案するも反応がなくて、不審に思って再び顔をあげた、ら。

「っ!?ちょっ、急にこっち向かないでくださいよ!?」

腕で隠しながらも真っ赤になった顔が見えたりするわけで。

「…っ、いいから、さっさと終わらせるよ」

つられて温度が上がった私の顔が、緩んだ頬が。どうか彼に気付かれませんようにと心の中でひっそり祈った。



END


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