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夜空を翔ける馬車はあっという間に名前を白石城へと運んだ。
トトン、と軽やかな音を立てて着地する。


「よし、じゃあ、俺たちはここまでだな」

「ひ、ひどい目に合った…」


瀬戸内から奥州まで短時間で空を渡ってきたため、さすがの名前も肝を冷やしたようだった。それもその筈、飛行機のようなスピードが出る癖にあくまでも外装は馬車。摩擦や空気抵抗は魔法の力でかなり和らいでいたが、全くない訳ではない。
おまけに、かなり揺れる。乗せている人間のことなど省みない馬だから、とても快適な空の旅とは言えなかった。


「化粧も落ちてないし、大丈夫だって!さ、早く行かないと終わっちまう」

「はいはい」

「あ!それと、魔法使いから伝言。0時の鐘が鳴り終わる前にはここへ戻ってきなってさ」

「0時?なんで?」

「魔法が解けるんだ。ドレスも馬車も消えて元に戻ってしまう、って言ってたぜ」

「へぇ…ま、気を付けるわ。ありがとね!」

「おぅ!楽しんでこいよっ」


会場であるダンスホールへ向かう名前を、御者は少し羨望の混じった眼差しで見つめていた。



「命短し恋せよ乙女、か…」

呟いた御者の言葉は小さすぎて、闇の中へと呑み込まれていった。















「わったしーの、おーじさまッ、おーじさまッ」

ルンルン、と気分良さげに会場までやってきた名前だったのだが。


「………………ん?」


思わず立ち止まり凝視してしまう。


視線の先には、見知らぬ隻眼の美少年と談笑する3人組。どうにも見覚えのある3人組に違いはないのだが。


(なんでパパだけ着物…!?)

そう、その3人組とはもちろん元就、元親、小太郎である。名前の代わりを務めるため女装という、古典的なようである意味斬新な方法を用いた元就は着物着用であった。

元々線が細く、中性的な顔立ちであるから何も知らない人から見れば、美しい貴婦人のように見えないこともない。


だが名前は元就の身内──というより親子である。
さすがにあの光景には呆れを通り越して引いた。



(他人のフリしとこ…)


顔をひきつらせつつ、そう決意した名前だが、如何せん元就たちと話している男前が気になって仕方がない。


恐らく、彼が独眼竜と名高い伊達政宗。あまりじっくり見ることはできないが、顔のパーツも、その物腰や時折聞こえる笑い声もすべてが王子様に相応しい。


折角妙な魔法使いの力を借りてまでダンスパーリィに来たのだ。王子と踊っておかなければ名前の名が廃る。



しばらく隅っこで様子を見ていた名前だったが、ニヤリと不敵に笑い元就たちの元へと歩き始めた。





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