一方その頃。名前の代わりにダンスパーリィへ参加すべく一足先に奥州へ到着していた元就たちは…
「待て、何故我がこのような格好をせねばならぬのだ…!」
「仕方ねぇだろ。俺や小太郎じゃ特注にしねぇとないってんだからよォ」
「……………(コクコク)」
萌木色の着物に身を包んだ元就が憮然とした表情で立っていた。
元就としても納得はいかないが、可愛い娘を嫁に行かせたくないのが本音。とは言え、まさか自分が娘の代役をする羽目にはなるとは思ってもいなかっただろう。
「これも名前のためなんだからよ」
そんな心境を知るはずもなくポンッと元就の肩に手を置き、まるで他人事のような元親。
何故か無性に沸々と怒りが込み上げてくるのだが、そこは父親の貫禄。無言で元親の手を払い除けた。
「我に遅れるでない。行くぞ、小太郎」
「……!」
「おいッ!俺も行くからな!」
そうして三人揃って奥州は白石城へと足を踏み入れたのだった。
ところで、ヒロイン名前はと言うと。
「だぁぁああ!さっさと走らんかいこのバカ馬!」
不思議な魔法使いが用意してくれた馬車へと乗っていたのだが。
「君は馬鹿、とはどういった字を書くか知っているかね?」
「知るかンなもん!いーからさっさと私をダンスパーリィへ連れて行け!」
「これは失礼。私は人から命令されるのがあまり好きではないのでね」
「こンのッ……!」
頭から爪先まで艶々とした純白の毛並みで夜を照らし、鬣と尾だけが闇に融けるような漆黒。
とても美しい顔立ちの馬は、なんと人語を操り今まさに名前と口論の最中であった。と言っても、馬の方はどこか悠然としていて馬車を引こうとする気配すらない。
「あの妙な魔法使い…寄越すならもっとまともな馬車を寄越せってんだよクソッタレが…!」
一向に動かない馬に苛立ちを隠せない名前。その矛先は魔法使いへと向いていた。
そこへ。
「あれ?この馬車って確か…あ、やっぱり!おーい、姫さん」
「あァ?」
「おっと、そんなおっかない顔しないでくれよ…っても馬があれじゃ、仕方ないか」
「私いまめっちゃ急いでて機嫌悪いんですけど何か用ですか空気読めない兄ちゃん」
「そんなこと言わなくてもいいだろー…」
心ない名前の言葉に、救世主とも言うべき存在の青年は青カビが生えそうなほどジメジメといじけてしまった。
「ぅがぁぁぁー!ンなことでウジウジすんなッ!つーか用事があんなら早く言えっ」
「おっといけね、まつ姉ちゃんに叱られるとこだった。俺は御者、あんたをダンスパーリィの会場まで案内するよ!」
(空気の読めない救世主)
「だから、それが出来たら苦労してないんじゃん…」
「まぁまぁ、姫さんはそこで見てなって」
御者と名前を乗せた馬車はそれでもやはり動こうとしない。
「よう、頼むぜお馬さん!いっちょ奥州まで走ってくれよな」
「…卿か。期待は出来そうもないが、何か見返りはあるのかね?」
「そうだな…アンタの命、ってとこでどうだい?」
「ほう…それは脅しか?」
「さぁて、どうだろうな?俺もアンタには色々恨みがあるし…なぁ、姫さん!もしダンスパーリィに間に合わなかったら、俺んとこで馬刺パーリィでもどうだい?」
「……………………」
「ばっ!?……うん、まぁ活きがいいと美味しいよね、多分」
「では、早速奥州まで行くとするかね。私も命は惜しいのでね」
そうして漸く馬車はゆっくりと走り出した。
「姫さん!しっかり掴まってなよ!」
「げっ!?何これ飛ぶわけ!?」
天馬空を翔け、いざ奥州へ。
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