V
さて、時刻は夕暮れ。

いい加減暴れることに疲れた名前は半眼でただ正面を睨み付けていた。
柱にくくりつけられたため横になりたくてもなれず、彼女のイライラは最高潮に達していた。


そこへ。


「ヤッホー!名前ちゃん居るー?…って、あはっ、何その格好、誘ってる?」

「ひへ(しね)」



オレンジ色のツンツン頭が突然目の前に現れた。スカートで胡座をかいている名前の膝を撫でたりするものだから、頭突きをかましてやろうとしたが避けられた。どうやらわりと身軽な人物らしい。


「おっとー、俺様にそんなことしちゃっていいのかな?」


元親ならすぐさま謝りたくなるような鋭い視線で睨んでも、ツンツン頭には効かないようだ。


「今夜は特別な日だから…俺様張り切っちゃう」


にこにこと笑いながら膝をついて名前の猿ぐつわをほどく。

「…で、誰あんた?」

「残念、それがあんまり話てる時間がないんだなー、これが」

「時間?」


話ながらもツンツン頭はどんどん名前の縄をほどいていく。


「そっ!もうすぐ奥州でダンスパーリィが始まっちゃうから急がないと、ね」

「今から準備したって間に合うわけないじゃん…」

「あーらら、名前ちゃん諦めるんだ?」


不貞腐れる名前の頬を撫でて男は優しく笑う。

「俺様の知ってる名前ちゃんはもっと諦めが悪いと思ってたけど?」

「うっさいな、初対面だっつの」

「はいはい、それはいいから、パーリィ、行くの?行かないの?」

「行くに決まってんじゃんッバカ猿!」

「おっ、思い出してくれた?」

「だから初対面だっつってんだろ!」



バカ猿と罵られてもどこか嬉しそうなM気質(疑)の男は名前の腕を掴んで立ち上がらせた。



「まっ、細かいことは気にしないで、ちょっとそこでじっとしててよ?」

「なによー」

「んー…秘術、飾麗の術!」


男の声と同時にパチンと何かが弾ける音がした。さらにどこからともなく煙が現れる。


「うわッ!」



名前が驚いて目を瞑ったのは一瞬で、パチッと目を開けると煙はすでに晴れていた。

そして目の前には。


「じゃじゃーん!コレ、なーんだ?」

巨大な鏡にもたれ掛かるようにして、男は鏡の中を指差した。

鏡に映っているのは、紛れもなく名前、なのだが。




「…す…………スゲェェェェエッ!すごいけどなんかエロくない!?背中めっちゃスースーするんですけど!」



鏡には、シャンパニーゴールドのシフォンドレスを身に纏い、驚きのあまりアホ面になっている名前が映っていた。
肩はむき出しで首の後ろに回ったリボンがホックの役割を果たしている。骨盤の辺りで切り返しがついているが、名前の背中を隠すものは何もなく露となっていた。


「うはっこれホント眼福だわ、名前ちゃん」

「確かに可愛いけどさぁー…」


多少困惑しつつ鏡でぱっくり開いた背部をまじまじと見つめる。

「これ、このリボン引っ張られたら終わりじゃね?」

「試してみる?」

「アホか。時間ないッつったのアンタでしょーが」

「冗談だってば。これで留めてあげるから、後ろ向いてて」


そういって男が取り出したのは親指の先ほどはありそうな大きな真珠だった。シンプルな金細工が施されているそれは、どうやら留めピンらしい。

間違って挟んでしまわないよう、後れ毛を拠る男の指がくすぐったい。


「これでよし、っと。さぁ、そろそろ行きますか。お姫さま?」


眩しそうに目を細めて微笑む男の手をとって、名前も頷いた。




(Now let's go to the dance party)






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