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「あーあ、なんだって私ばっかり掃除しなきゃいけない訳?」


メンドくせ!とか呟きながら鼻をほじるという女子にあるまじき行為をしている彼女こそ、この物語の主人公、名前である。

西洋人さながらの透き通るような白い肌。アジアンビューティーのCMかと見紛う艶々とした長い髪。キリッとした涼しげな目元に桜色のふっくらした唇。


黙って綺麗にしていれば、とても美しい女性なのだ。


黙って綺麗にしていれば。


「名前ー!兄ちゃんが帰ってきたぞー!」

「ちッ…うぜぇのがもう戻ってきやがった」


バシーン!と派手な音を立てて扉が開く。開く、というよりむしろぶち壊された。


「てめー!チカ兄いい加減帰ってくる度ドア破壊すんのヤメロ!今度んな真似したら………………犯す」

「わ、わりィ…」


念のために断っておくが、名前は女の子である。口も素行も悪いがこの物語の主人公だということも忘れてはいけない。



「いつまで戸口に突っ立っておるつもりだ」

「あ、おかえりパパー」

「パッ!?き、貴様!我のことは父上と呼べとあれほど…!!」

「うるさいなぁ。父上って呼んでほしいならその全身オクラ姿やめて」

「オクラだと!?貴様実の父親である我を愚弄するつもりか!」

「へいへいすみませんでしたーっと」



再三言うが、彼女はこの物語のヒロインである。どうか菩薩のような心で見守ってあげてほしい。


「…………………」

「ん?」

くいくいっと袖を引っ張られる感覚で名前は後ろを振り向いた。


「コタ兄!おかえり!」

「…………………」

「お・か・え・り」

「……………………」



名前のもう一人の兄は極度のシャイボーイなのだ。

家族といえども滅多にその声を聞いたことがない。オマケに前髪を長く伸ばしているものだから、表情が見えない。



「小太郎ってめッ何か言いたいことがあるならさっさと言わんかい!」

そのためこんな風に名前に八つ当たりされることもしばしばあったりする。

もとい、結構頻繁にあったりする。



「……!!」

「んー?なにこれ」


そんな小太郎が名前に突きつけたのは一通の手紙だった。





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