「姫様、私はヒモですか」
「は?」
もはや恒例となりつつある夜の散歩で三成が出し抜けに放った言葉に、姫は思わず耳を疑った。
「女性に養われている男をそう呼ぶのだと」
ヒモ、という俗称の定義は知らないが、三成の言葉をそのままとれば確かに彼はヒモ男に当てはまりそうだ。
「いや、まぁ…でも三成の場合は事情が事情だからね」
ゲームの中から飛び出してきた戦国武将が、現代において働ける場所などあるのだろうか。その事情を除外視しても、銀髪に翡翠の眸でおまけに美形とくれば否応なしに目立つ。
髪は染めるなどすればどうにかなるが、眸はどうしようもない。黒のカラーコンタクトを入れる、というのはあまり現実的ではない。
「三成は、働きたい?」
「それが姫様の助けになるのであれば」
「そうか…じゃあ、どこか雇ってくれそうなところを探してみようか」
斯くして、世にも奇妙な戦国武将の就職活動が始まった。
「うーん、どうしようかな…」
とは言ったものの、都会のように求人雑誌が出回っているわけでもなく、職業安定所に仕事を斡旋してもらうわけにもいかない。
「三成は接客…お客様相手のお仕事じゃない方が向いてると思うんだけど…力仕事って感じでもないし…」
「こちらの世界ではどのような仕事があるのですか」
「いろいろあるよ。何から説明すればいいかな…例えばわたしの仕事はね、事務仕事が中心だから職場にいることが多いんだけど、営業というか現場に出たりすることもあるの」
戦国時代に存在する仕事のシステムがどういったものなのかは知らないが、飲食店などはあるはず。とすると、そのあたりの概念は説明するまでもないだろう。
「ここで出来る仕事もありますか」
「わたしの家で、ってこと?」
無言で頷く三成から視線を外し、頭を捻らせる。直ぐに浮かんだのは内職だ。ただし、あれは量が多いわりに単価が安い。時間潰しにはいいのかもしれないが、基本部屋に隠りきりな三成に数時間単調な作業をさせるのは気が引けた。
時間はかかっても、部屋で出来るもの。できれば単純過ぎるものではなくある程度頭を使わなくてはいけないようなもの。
「あっ、」
一瞬、思い浮かんだのは数年前の言葉。一人につき五千円で、という話を訊いたことがある。姫自身、実際に利用したことはないが便利だろうな、とは思う。ただし、それをするにはまず突破しなければならない関門がある。
「三成…パソコン、覚えようか」
「ぱそこん、ですか」
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