二人の共同生活は、姫が思っていたより早く互いに馴染んだ。最初こそ家電製品から日常の生活にいたるまで付きっきりだったが、三成は覚えがいい。すぐに一人でもある程度のことはできるようになった。
ただ、一人ではあまり外出したがらない。姫が家にいる間はもちろん仕事に行っている間もほとんど部屋の中にいるようだった。
「ねぇ、三成。ちょっと散歩に行こうか」
そう、声を掛けたのは夕食もすみのんびりと寛いでいたときだった。いくら本人が望まなくとも、部屋の中に籠りっきりは精神衛生上よろしくない。三成の風貌は目立つが、夜ということもあり帽子を被っていればまず問題ないだろう。
刀の代わりに何か持っていないと落ち着かないらしいので、とりあえず傘を持たせておいて。
「そういえば、三成はこれが初めての外になるの?」
「はい。外出するのは初めてです」
「そっか。じゃあ、はい」
玄関から出たところでついっと手を三成に差し出すが、彼はそれを不思議そうに見つめ困惑の色を表した。
「電気は点いてるけど暗いし、車とか色々危ないから。手、かして」
姫の中では、三成は子どもかペットみたいなものだ。言葉はもちろん理解するが、主である姫に従順で反発することはない。例え反発したとしても、それは姫には伝わらないような微々たるものだった。仮に伝わったとしても、姫はほとんど頓着しないのだが。
「じゃ、行こうか。あ、足元気を付けてね」
なかなか動かない三成の手を掴み、段差に視線を送ったあと再び前を向いて歩き出す。
姫の住んでいる地域はお世辞にも都会とは言えないが、その環境にいまはこっそり感謝する。きらびやかなネオンや賑やかな人だかりを求めているわけではない。ただ静かにゆっくりと、三成と過ごす時間が欲しかっただけなのだから。あの、部屋という密室から抜け出して。
歩きながら、姫はポツリポツリと自分のことを話した。産まれてからどんな風に育って、何を勉強してきたか。学校で遊んだこと、友達と喧嘩したこと、先生に怒られたこと、部活のこと、好きだった人のこと、家族のこと、仕事のこと。
三成はそれをただ、じっと聞いているようだった。口を挟むわけでも、驚いたり悲しんだり怒ったりもしない。ただただ静かに、時折頷いたり相槌をうちながら姫の話を聞いていた。
一通り話し終えて沈黙が訪れる。次にそれを破ったのは、三成だった。
「私は…私は何のために存在しているのでしょうか」
姫に問うているようにも、答えなど求めていないようにもとれる。
「秀吉様も、半兵衛様も失い、刑部さえも…!私が一体何をしたと言うのだ…なぜ、私一人が生きている…?」
「三成…」
駄目だ、我慢できない。
たった独りで何もかもを失ってしまった三成を、これ以上黙って見ていることができなかった。
大切な人を失って、世界からも見放されたような彼を全身で包み込むようにぎゅうぎゅうと抱き締める。大丈夫なんて無責任なことは言えない。けれど、自分の中の生きる力が少しだけでも三成に分けてあげられたらと、姫は思わずにはいられなかった。
END