その染み、永久保存版につき
「さかにゃんさかにゃん」

何かの拍子をつけるように(それこそまるで音符がつきそうなぐらい)楽しそうに俺の名前を呼ぶ生き物を見て思わず舌打ちをする。ったく、世良の奴…何が「堺さん子どもとか好きそうですし」だ。適当なこと言いやがって。
まぁ確かに子どもは嫌いじゃないがだからってその世話ができるかと言われれば、それはまた別の話だ。
ちらっと視線を寄越せばベッドの上でぺたんと座ったままのそいつと目が合った。人差し指を加えたまま何かを訴えるように上目遣いで見上げてくる。そんな目をされてもこちらとしては何もしてやれない。

「……何だよ」

訊ねてみたはいいものの、この小さな子ども(というより赤ん坊)が何かを訴えるとは考えられない。どうしろって言うんだ。(あ、今なんとなく世良の気持ちが分かった)
しかし世の中とは何が起こるのか解らないものだ。

「さかにゃん、トイレ」

「………は?」

俺の耳はあり得ない音を拾った気がして思わずポカンと口を開けた。

「だから、ト・イ・レ」

そんな俺を見て呆れたようにわざとゆっくりトイレ、と発音する。そりゃあもう赤ん坊でも聞き取れるぐらい一言一句違えずゆっくりと、だ。
ちょっと待てお前どうして接続詞なんて使えるんだと突っ込んでやりたい気持ちはあるが、赤ん坊が俺のベッドの上でトイレをする構え(俗にいう…ヤンキー座りってやつだ。「堺さん似合いそう」だと?ふざけんな)をしたところで俺の思考回路は一旦停止した。お前、待て、どうするつもりだ。
内心焦る俺を見て赤ん坊はこれまたイイ笑顔できっぱり宣言した。

「もれる」





(そのみ、永久保存版につき)







「ま、待て!話せばわかる…!!」

とりあえず急いでトイレへと連行することにした。




END


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