なまえと付き合い始めた時、わりとすぐリムル様から「怒らせるなよ」とわざわざ忠告を受けていた。その時は大丈夫だと思っていたのだが。
「おいなまえ。怒ってるのか」
「別に怒ってない!」
いや、そんな言い方で言われても説得力ないし怒ってるだろ…どう考えても。
「痛いから止めてって言ったじゃん!フォビオが悪い!」
「う、悪かった!俺が悪かったから!」
商店街から離れているとはいえ、ここはまだ街中で人も多い。怒りで声が大きくなっているなまえには周りが見えていないんだろう。何だ何だと野次馬の目が痛い。見せ物じゃねえぞコラ。
「待てって!」
歩く速度を緩めずに突き進むなまえの腕を掴む。怒っている原因は分かっているが、このままじゃあ話もできない。
なるべく優しく掴んではいるが、離すつもりはない。なまえが俺の腕を振り払おうと全力で抵抗するが、当然敵うはずもない。
「スマン、なまえ。俺が悪かった。だから…」
だから、俺を拒否しないでくれ、とは格好悪くて流石に言えなかった。嫌われたくない。離したくない。触れていたい。たったそれだけのことなのに、うまくできない自分が情けなくて腹が立つ。
なまえが嫌になるのも仕方がないのかもしれない。両想いになったのにまだこんなに苦しいとは。恋というのは厄介なものだ。なるべく優しく掴んでいたつもりの腕をも、なまえにとっては堪らなく痛いのかもしれない。そう思うと自然に力が抜けていった。なまえの腕が、右手から離れていく。こんな簡単に、心まで離れていってしまうのか。
「…フォビオとわたしの身体は違うもん」
ぽつりぽつりと話し出したなまえをただ見つめることしかできない。
「強くしてるつもりなかったかもだけど、わたしにとっては痛かったんだもん。だから…ちょっと止まってほしかっただけで…別に、イヤとかじゃないし!」
ドン!となまえの全然痛くない頭突きを喰らう。そのまま頭でぐりぐりと抉られるがこれも全く痛くない。むしろ髪の毛が顔にかかるしくすぐったいぐらいだ。
「そうか」
それなら良かった。爪で引っ掻かないように、力を入れすぎないように優しくゆっくり抱きしめる。
「これぐらいなら大丈夫か?」
「ん〜まぁまぁかな」
さっきまで怒っていたのは何なのか。調子に乗るな、と思う反面機嫌が直って良かったと思うし嫌われたわけじゃないと分かってホッとする。
だがしかし、やられっぱなしは性に合わない。腕の力はそのままで、なまえの耳を甘噛みする。
「ひゃあッ!?」
「これも大丈夫だろ?」
「も〜!知らないっ」
これはただ照れてるだけだな。可愛くてつい力任せにぎゅうぎゅうしたくなるが、そうすると振り出しに戻ることが分かっているのでさすがに止めておいた。
END
ヘタレフォビオいうたん誰や