彼の人は憂鬱夕暮れ懐古
店の買い出し中、ふと見知った姿に視線が向く。最近よく来てくれるようになったお客さん。知らんぷりして通り過ぎることもできるけど、と思っていたところでパチっと目があった。

「フォビオ様だ〜」

グルーシスがフォビオ様って呼んでるからつい、わたしも様付けで呼んじゃうんだよね。偉い人なんだろうけど、フランクで話しかけたら普通に返してくれるいい人だ。

「買い出しか?」

「そうなんですー。店長がついでにゆっくりしてこいってお小遣いくれて」

店の様子を思い出したように頷くフォビオ様は、なんとなく沈んでいるような表情。ビールを飲んでもあんまり変わらないというか、陽気になったりする方じゃないみたいだけど今日は特にテンション低めだ。こんないい天気なのに。

「フォビオ様は?買い物?」

「いや、改めていい街だなと思ってな。少し国を思い出してた」

フォビオ様やグルーシスの故郷は、魔王ミリムによって崩壊したと聞いている。そうか、だから物思いに耽っていたのか。別にテンション低かったわけでもないか。

「あ、そうだ。フォビオ様、今からちょうどお茶しようと思ってたんですけど。よかったらどうですか〜一緒に。ご馳走しますよ!」

自分の住んでいた街、育った街が壊されてしまうなんてことは、元の世界も含めて経験したことなんてない。だから、今フォビオ様がどういう心境でいるかなんてちっとも想像できないしどういう風に声をかけていいのかも分からないけれども。

「うまいもんでも食わせてくれるのか?」

「ん?いやいやお腹空いてるならあとでうちの店に食べに来てくださいよ。カフェで休憩ですよ休憩」

誘ってすぐOKだなんてノリのいいお方だ。買い出しした野菜やら何やらの荷物も持ってくれたし、ラッキーラッキー!


END


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