そうして君の気をひきたいんだ
「ねぇユリウス、キスしていい?」

読書に耽る紫髪の美丈夫を見つめているとついうっかり本音、というか本能が漏れる。本能というか、煩悩?

「…君に淑女らしさを求めた私が愚かだったか」

そんな発言に最近はもう慣れてきたのか、こっちをチラッと一瞥しただけで冷たくあしらわれてしまう。

「えっ、何ソレ心外。物言わぬお人形さんの方が良かった?」

この世界に来てすぐ、訳の分からない状況のなか心を殺して生きていた当時を振り返る。もちろん、彼が『物言わぬお人形さん』時代をよく思ってないことは百も承知なんだけど。
無言で読んでいた本を閉じ、短く吐かれた息に少しだけ緊張する。滅多にないけれど、もしかして怒らせた?機嫌を損ねた?
彼の動向が気になってその行動を目で追う。と、閉じた本をテーブルに置いて立ち上がった、かと思えば。おお?こっちにやってきた。

「なまえ」

ソファーの上でごろん、とうつ伏せになっていたわたしの目の前までやってきて名前を呼ばれた。居住まいを正した方がいいか?いやでもそれもなんだか雰囲気が畏って怖い。とは言え返事をしていないのも気になるしどうしたもんか、とユリウスの顔を見ながら首を傾げる。

「君は、本当に…不思議な女性だな」

わたしの寝そべるソファーの足元に腰掛けながら呟かれた言葉に目を瞬かせる。不思議ちゃんとか言われたことないな。

「そう?ちなみにそれって褒められてる?」

ユリウスの発言の意図がいまいち掴めない。どういう文脈の流れで…というか会話が噛み合ってなくないか。ちゃんと会話しよう、と思って起き上がりソファーの上に座り直す。先ほどと違ってほぼ同じ目線の高さで見つめるユリウスは、うん。間違いなくイケメン。前髪をさらりとかき上げて「ふ、」と緩く息を吐くような笑み。あ、これわたしの好きな表情。好きな人の好きな表情をする瞬間をこんな間近で見てしまって思わず胸が痛くなる。

「そんなふうに見つめられると、自分を抑えていることがバカバカしくなるな」

「え?」

なに?と言葉の意味が頭の中に入ってくる前に、腕を掴まれグッと引き寄せられた。結構勢いよかったのに痛くないってさすが、なんて全然関係ないことを頭の片隅で感じつつ。

「君はキスがしたいと。そう言っていたが」

間近で見る黄金色の瞳がぎらりと輝いた気がする。それはいつもの最優の騎士でキザっぽいユリウスではなくて。

「まさかそれだけで事が済むとでも思っているのか?それとも…」

最優とか美丈夫とかいう肩書きをすべて上書きするような、そんな強い感情を孕んだ黄金色。

「その先まで見越しての発言だったのかな?」

その、黄金色が。至極嬉しそうに細められたを見てわたしは考えることを止めにした。



END


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