「なまえ!見てくれたかい?このボクの麗しの一撃を!」
「うん…まぁ、そうだね…」
攻撃に麗しもクソもないだろ、なんて言葉を彼に言うわけにもいかず、わたしは曖昧に頷いておいた。今日はアヌビスと出かけるつもりだったのに、あろうことか彼に見つかってしまい半ば強引に守護神を交代したってわけ。
アヌビスもアヌビスだ。わたしとの冒険より美容にいい何とかってお酒をとるなんて!いや、うん、美味しくってお肌にもよくて珍しいお酒なんて言われたら心惹かれるのは分かるんだけど。
「キミもボクに続いて華麗な剣舞を見せてごらん」
「え?って、魔物じゃないの!」
タケルの声に振り返れば、こちらに向かって掛けてくる魔物の群れ。
「はっ!」
初めて対戦する相手だったけれど、クレイモアの一閃で呆気なくやられてしまった。格下の相手でよかったと、一息ついた時。
『なまえ…』
「っ!?」
「…なまえ?」
頭の中で、声がした。体感したことのない出来事に全身が緊張する。なに、何が起こってるの。
『なまえ…わたくしの声が聴こえるかしら…返事をしてくださいな』
(えっ、この声は…サクヤ姫?)
『えぇ。なまえ、時間は余りないわ』
(どういうこと?)
『ジークフリートが貴女を呼んでいる…今すぐ戻ってくださる?』
(ジークが?分かったすぐ戻る)
そう、心の中で応えると頭の中で響いていた声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
どういう仕組みかは分からないけど、とにかく今は戻らなくては。
「タケル、戻ろう」
「どうかしたのかい?さっきもぼんやりとしていたようだけど…ボクの美しさに参っていたのかな?」
「はいはい」
相変わらずなタケルは放っておいて、空間転移の御札を取り出し印を結ぶ。地面には青白い光で五芒星のようなものが浮かび上がり、魔力の高まりとともに一瞬辺りが見えなくなるほど眩い光でいっぱいになる。
目を開けるといつもの場所に戻っているのだけど、何度やってもこればっかりは慣れない。
「あっ、おかえりなさい!なまえさん。今日は早いですね」
「うん、ちょっとね」
戻ると、出掛けた時と同じようにナビィがいて声を掛けられた。一瞬、ジークのことを聞いてみようかとも思ったけどやめる。何があったかは分からないけど、不確かな情報提供は混乱を招く。内輪で解決できそうなことなら、わざわざナビィに知らせることもないし。とりあえず、サクヤ姫のところへ行って話を聞いてみよう。
起承転?
(さぁて、どうなることやら)
END