君と僕と一番(tp/向日)


「・・・・・・ん」

 ぴりり、と気の抜けた音に意識を引きもどされる。
 見ていたはずのテレビ番組は、どうやらぼんやりしているうちに終わってしまったらしい。はぁ、とひとつ息をついて、音の主であるスマートフォンを手探りで探す。あれ、この辺に置いたと思ったんだけど。テレビを消してみるけれど、着信音はふつりと途切れてしまった。

「やば、」

 がさごそとソファーの辺りを漁ってようやく見つけたそれのディスプレイには、『向日岳人』の文字が浮かんでいる。私はもう一度ヤバイと呟いて、ディスプレイに指を滑らせる。慌てて耳にあてれば、コール音は一回で途切れて、怒鳴るような声が飛び込んできた。

『遅い!!!!』
「ご、ごめんってば、ちょっとぼーっとしてて」
『何時だと思ってんだよ!!』
「まだ十二時になったばっかりじゃん・・・・・・」
『二分過ぎてんだよ!!』

 ったく、と呆れたような声が小さく聞こえた。岳人はこういうイベント大事にするもんなぁ、なんて暢気に思いつつ、私は岳人の名前を呼んだ。

「ねえ岳人」
『・・・・・・んだよ』
「あけましておめで、」
『あっ!ストップ!』
「え?」
『それ言う前に窓開けろ!窓!』
「まど?」

 首を傾げつつ、言われた通りに窓を開ける。冬の夜特有の、しんと冷えた空気が私の鼻先を撫でた。
 窓開けて何がさせたかったんだろ。身を震わせながらも窓の外へ顔を出した瞬間、冷たいものが頬に触れる。

「っひ!?」
「っはは!つめてーだろ!」
「え、あ、岳人?」
「おー。あけましてオメデト」
「あけましておめでとう・・・・・・」

 歯を見せて笑う岳人は鼻が赤い。ぱちりと目を瞬いて、その岳人が幻ではないと理解した私は、慌てて彼を家の中に引きずり込んだ。岳人は驚いたように目を見開いたのち、ありがとななんて呟いてあっさりと家の中へ入ってくる。

「こ、こんな寒い中なにやってるの!?」
「新年のあいさつに決まってんだろ」
「何でわざわざ来たの・・・・・・電話でもよかったじゃん。現に電話してたんだし」

 彼の冷え切った指先を少しでも温めようと両手で包み込むと、岳人は少し考えるような顔をしてから、ちらりと私の顔を見た。

「・・・・・・え、」

 ぐい、と手を引かれる。何の心構えもしていなかった私はあっさりと岳人のほうへと倒れ込み、そして、そのまま。

「っ、ん!?」
「ごちそーさん」
「え、は?」
「これがやりたかったから来たんだよ。今年、初チュー」
「ば、ばかじゃないの・・・・・・」

 にやりと笑う岳人にむかつきもしたけれど、その顔が鼻先と同じように少し赤くなっているのを見てしまえば、吐き出そうとしていた文句は喉の奥へ引っ込んでしまう。あとに出てくるのは、甘えたような拗ねたような、そんなばかみたいに甘ったるい照れ隠しだけだった。


君と僕と一番


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -