020


「・・・・・・ハァ、元に戻った・・・・・・!」
「ッ、は・・・・・・よかった、チョッパーくん・・・・・・!!」
「・・・・・・死んじゃいねェだろうな・・・・・・まさか仲間たちも取り扱いが分からなかったとは。お前も知らなかったんだろ」
「うん。そもそも私もウォーターセブンからの付き合いだから・・・・・・」
「だよなァ。――――まァなんにせよ、“CP9”を一人倒したのは事実・・・・・・あんな姿になってもお前を庇う仲間たちに免じて、俺様に攻撃したことは許してやらァ・・・・・・」

 私とフランキーは、チョッパーくんを元に戻すことに成功した。気絶しているみたいだけど、命にまではかかわらずに済みそうだ。胸を撫で下ろし、私は今後の作戦についてフランキーから指示を出される。

「お前は俺と一緒にニコ・ロビンに鍵を届ける役だ」
「なるほど・・・・・・ということは私たちは“正義の門”を目指すわけで・・・・・・」

 あそこへは一体全体どうやって辿り着けばいいんだ。どうやらフランキーもその辺りは知らないらしく、チョッパーくんのお腹を軽く踏んで水を吐き出させながら首を捻っている。
 そこにココロさんのところの女の子が現れて、正義の門への道を教えてくれることになった。フランキーのほうはどうやら彼らの分の指示もナミさんから受け取ってるらしい。道を教えてもらい、指示を出すと、チョッパーくんを置いて私たちは走り出した。一刻も早く、ロビンさんに追いつかなければならない。




 倒れ伏したキリン男を見下ろして、俺は一つ深く息を吐いた。
 さすがに消耗したが、俺がコイツに勝った以上、残る問題はロビンの回収とロブ・ルッチだ。クソコックでもあれぐらいなら倒せるだろう。あいつと合流し、残りの鍵を早いとこ届けなきゃならねェ。
 その前に、このキリン男には言わなきゃならねェ言葉がある。俺は振り返らないまま、託されたそれを口にする。

「ハァ・・・・・・一つ、ガレーラの若頭から伝言だ。――――てめェら、“クビ”だそうだ」
「・・・・・・パウリーか・・・・・・そうか、困ったわい・・・・・・殺し屋という仕事は・・・・・・潰しがきかんと言うのに」
「動物園があるじゃねェか・・・・・・」
「・・・・・・わは、は・・・・・・言うてくれる・・・・・・!!」

 どこか愉しげにそう呟いたそいつは、鍵を取り出したところで気絶した。悪ィな。そう呟いて、その鍵を回収する。今度こそ、ロビンのところへ早く向かわなければならない。息を整えながら考えるのは、一味の奴らの現在位置と役割だ。
 ウソップにはクソコックが何か言ってたから大丈夫だろう。ナミも一緒だったはずだ。クソコックはそのうちここへ来るだろう。チョッパーはどうせ気絶だろうが無事なはずだ。ルフィは・・・・・・恐らくロブ・ルッチと戦闘中だろう。これだけ派手にやっててあの二人、どっちの姿もねェってことはそういうことだ。
 そして、ロビンに一番近い位置にいるのはフランキーとミナトだろう。別行動する用事がなけりゃああの二人が鍵を届けに行っているはず。

「・・・・・・」

 ミナトが塔から飛び降りる瞬間、俺を振り返った理由は何だったのか。
 ミナト自身が生み出した風に煽られて舞う赤髪と、こちらを真っ直ぐ見据えていた青い瞳が目に焼き付いて離れねェ。

「・・・・・・まァ、いいか」
「おうマリモ!!鍵はどうした!?」
「あァ、今貰ったとこだ」
「しかしまたズレたなこの塔、大丈夫かよ・・・・・・!!」
「どうでもいいだろ。とにかくこれで鍵は全部集まった!!急いでロビンのところへ行くぞ!!」

 瞬きをしても、赤と青は消えない。それを一度思考の外へ追いやるようにして、俺は駆け出した。




 未だかつて、こんなにも『生きたい』と感じたことはないと思った。
 スパンダムに引きずられながら、一歩ずつあの門に近づいていってしまう。それがひどく恐ろしいことのように思えて、私は普段の私なんか全部かなぐり捨てて、生きることに執着した。みっともなくたっていい、彼らが私を助けるために戦っていてくれるのなら、私が戦わなくてどうする。
 満足に動かない身体がこんなにも恨めしい。死ぬことがこんなにも恐ろしい!!

「ニコ・ロビン、一ついいことを教えといてやろうか。俺たちが今上ってきた階段、その上部に仕掛けてある“地雷”をONにしてきた・・・・・・もしだ、万が一・・・・・・ここへ来ようという輩がいたら、階段ごと吹き飛ぶ仕組みさ、面白いだろう?」
「・・・・・・!!・・・・・・!!!」
「ワハハハ!だがその点心配すんな。階段に辿り着ける奴なんざいねェよ!!!」
「・・・・・・ハァ、でも、門はくぐらない・・・・・・!!!」
「あァ!?」
「『助ける』と・・・・・・言ってくれたから・・・・・・!!!」
「誰も来やしねェよバカ女!!!どいつもこいつも“バスターコール”の業火に焼かれて死ぬんだよ!!」

 そう叫んだスパンダムはサウロの名を口にして、勢いよく私を引きずり始める。私は上手く抵抗する術すら、もう持っていなかった。
 そして奴は、信じられないことを言ってのけた。オハラにバスターコールをかけたのは自分の父親だ、と。猛烈な怒りが身体を支配すると同時に、ひどく、哀しいような、虚しいような、そんな心地がする。ああ思い出してみればそっくりだ。こんな男たちのせいで、私の大切なものはめちゃくちゃにされた。

「――――オハラは敗けたんだ!!!」

 気分よさげにそう叫ぶこの男を、私はきっと一生許さない。

「まだ私が生きてる!!!!」
「そのお前が死ぬんだろうがよ!!!!」

 そのとき、後ろで爆発音がした。慌てて振り返れば、爆炎の最中、海に落ちていくのは一緒に捕まっていたカティ・フラム、――――フランキーだ。じわりと心臓が冷えていく。
 私を助けに来た。そうして傷ついた。一瞬、私の身体を絶望が支配する。

「・・・・・・ロビンさん!!!!」

 そこに響き渡った、空気を裂くような声に顔を上げる。まさか、まさか。

「フランキーは無事です!気にしないで!」
「・・・・・・あな、た、」
「何だ、アイツは!!!まさかカティ・フラムとここまで来たって言うのか!?」
「助けに来ました、――――約束通りに」

 暴風の中で赤い髪が靡き、掲げた右手にまとわりついている。そして彼女の、――――『風射手のミナト』の手が振り下ろされた瞬間、顔の横をすさまじい風が吹きぬけた。
 彼女は風を操るのか。スパンダムが吹き飛ばされ、私が呆然としている間に彼女は私の元まで駆け寄ってくると、腕を引いて走り出そうとした。気付いた海兵がこちらに向けて発砲してくるが、彼女の風に阻まれて弾丸は届かない。彼女は私を庇うようにして走っていた。

「ックソ!!!逃がして堪るか!!!行け、ファンクフリード!!“象牙突進”!!!」
「っ、ロビンさん!!!」

 だから、私を狙って放たれた攻撃が、彼女に当たるのは当たり前だ。突如香った濃い血の匂い、甘いソプラノに似合わない呻き声、肉が斬れる嫌な音。こんなときだというのに、私は彼女を何と呼ぶかで一瞬迷い、「ミナト、」と声を絞り出す。

「ッハハハハ!!!思い出した!!思い出したぞ!!こいつァ、『風射手』じゃねェか!?政府が何年も探してるって言ってたな、そういや・・・・・・!!土産が増えたな!!!」
「ッ・・・・・・!!!」
「確か“自然系”じゃねェんだったな・・・・・・ちょうどいい。オイ、誰かこいつも連れていけ!!」
「はい!!」
「駄目・・・・・・!!!」
「おめェは自分の心配でもしてろ!!!」
「あうッ!!!」

 追いついてきたスパンダムが私の背中を押さえつけた。視界に伏したミナトが映る。脇腹を押さえ、それでも立ち上がろうとしている彼女に海兵が近付いていく。彼女は攻撃を避けられたはずだ。でもそれをしなかった。恐らく風は斬撃と相性が悪いのだろう。だから風で防御せずに、私を庇った。心臓が痛い。涙が溢れる。死にたくない。あの子を道連れになんかしたくない。悔しくて涙が止まらない。
 スパンダムが私を引きずる。もうすぐ、アーチをくぐってしまう。

「よく見ておけ!!この一歩こそ歴史に刻まれる英雄の!!第いっ・・・・・・ポガバ!!!!」
「・・・・・・!!?」

 スパンダムが吹き飛ぶ。周りの海兵が吹き飛び、ミナトがやや乱暴に地面に落とされる。ひやりとするが、彼女はゆっくりと顔を上げて、司法の塔のほうを見上げた。――――ああ、そうか。
 私の目に、新しい涙が浮かぶ。海兵たちが騒がしいのも全然、耳に入ってこない。私と彼女は、天に指を突き上げる救世主を見つめていた。

「長鼻君・・・・・・!!!」
「ウソップさん・・・・・・!!さすが!!」

 おかしな仮面を被った、――――それでも特徴的な鼻をさらけ出したままの、一味の狙撃手が、私たちを助けてくれたのだ。


さあ祈れよ我が神に

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