神戸透の朝は早い。毎日早朝3時には起床し、重箱2つ分の弁当を作る。更に家族の朝食も用意し、朝の日課であるランニングに出る。そして制服に着替え学園まで徒歩で向かうのだ。余裕を持った登校をし学園についた透は、朝練の支度を始める。マネージャーのいないテニス部を支えている透は、ドリンクやタオル、他の部員のジャージ等の繕いすらも行う。それを終え、きちんと揃えて棚の上に置き、自分はストレッチを始める。それと同じくらいに跡部と樺地もやってくるのだ。


「いつもながら早いな」
「まあなあ、誰かさんが弁当を作れって言わなきゃなあ」
「おはよう、ございます…」
「あ、樺地おはよう」
「ぐっ…」


毎朝妻よろしく弁当を作っていた透だが、それは跡部の我が侭にあった。今ではレギュラー全員が食べている為、透の弁当が食べたければレギュラーになれ、とまで言われている。更に跡部が弁当をこれ見よがしに見せつけ、赤い顔でにやにやしながら食べるものだから、平部員たちの憧れの弁当となっていた。


「おはようさん」
「おはよう侑士」


それからレギュラーが全員集まり、朝練が始まった。少しして、跡部は透の違和感に気がついた。久しぶりに彼の眼力がまともに働いた瞬間である。


「透、顔が赤いぜ、疲れたか?」
「え…や、全然大丈夫だけど」
「汗もすげえし、風邪でも引いたんじゃねえか?」
「風邪ねえ、おれ引いた事ないけど」


言葉通り、透は生まれてこの方、風邪はおろか病院にかかった事はなかった。だからこそ自分が現在どんな状況なのか、全く理解してなかったのだ。


「おーい透ー!」
「ん?どーしたー」
「ジャージ切れちった」
「あーもう、仕方ないなあ…ちょっと待ってろ」


向日が破けたジャージを手に透たちの方へ歩いてくる。透はそのジャージを見てため息を吐くと、ソーイングセットを取りに部室へと向かった。その途中、足元がふらつき体が傾く。


「え…」
「透!!」


透が意識を飛ばす前に見えたのは、焦った様子でこちらに走ってくる跡部だった。










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