透とリョーマは顔を見合わせると、お互いに心底嫌そうな顔をしている事に気が付いた。一緒にため息を吐くと、リョーマはゆっくりとした動きで部室のドアを開ける。


「はーっはっはっは!…ん?透じゃねえか、どこ行ってたんだ?」


青学の部室でふんぞり返っている跡部が、透を見つけると彼に声をかけた。彼の隣にいたリョーマは横目で透を見る。


「いや…景吾こそ何してんの…?」
「あーん?お前を待ってたんじゃねえか」


跡部はさも当然のように言い放ったが、透は呆れるしかなかった。偵察とは敵に気付かれないようにやるものではないのか。透が呆れて頭を抱えていると、そこに青学の部長が近付いて来る。


「お前も氷帝の生徒か?」
「え…まあ、はい」
「俺は部長の手塚だ」
「知ってます、おれは氷帝学園3年の神戸透です」


喋ってから気付いたが、何故自分は同い年の手塚に敬語で話しているのだろうかと。だが自分より高い位置でこう、跡部とはまた違う存在感で喋られると、どうしても敬語になるらしい。


「えっと…すみません、なんかウチの馬鹿が…」
「いや気にする必要はない、目的地は同じだったからな」
「…は?」


手塚の言葉に、透は首を傾げた。未だ偉そうに青学の1、2年を顎で使う跡部を透は見た。


「景吾、何したの?」
「あーん?お前が迷ってるみたいだったから探してたら手塚に会ってな。そのまま案内させたぜ」
「おれが迷ってたのは認めるけど…景吾も迷子だったんだからな!」
「俺様が迷う筈ねえだろ?」
「迷ってんだよ!」


何を言っているんだとでも言いたげな跡部に、透は全力でつっこんだ。肩で息をしながら呼吸を整えると、透は自分の隣から視線を感じた。


「アンタ、氷帝の人だったんだ」
「…あー、うん、嘘ついてごめん」
「知ってたから別にいいけど」
「そっか。…ってはい?」
「乾先輩から名前は聞いてたし」
「…誰?」


その時、透の背後からむわっと、今までに嗅いだ事のない臭いが漂ってきた。隣のリョーマは鼻を抑えて後退り、更に他の部員は慌てて部室の窓を開ける。


「はじめまして、神戸透くん」
「…はじめまして?」


透はあり得ない臭いに眉を寄せながらも、いつの間にか自分の後ろに立っていた背の高い部員を見た。彼は両手に3個ずつジョッキを持っていて、その中身は不思議な色で蠢いていた。


「ああ!逃げてください神戸さん!」
「やめろ桃城、お前があれを変わりに飲むのか!?」
「……っ、すみません…神戸さん…!」
「ちょっと手塚、止めなくていいのかい?」
「何をだ?」
「諦めなよタカさん、手塚には伝わってないから」
「そっか…」
「だから何がだ」
「ど、どうしよう大石ぃ!彼死んじゃうよお!」
「何ぃ!?この俺様が透を死なせる訳ねえだろ!」
「うわあ落ち着いてくれ跡部!」


透は自分の背後の騒々しさに思わず耳を塞ぎたくなったが、それでも前を向き続けた。目を反らしたら死を意味するような気がしたからだ。










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