1 神戸透の朝は早い。毎日早朝3時には起床し、重箱2つ分の弁当を作る。更に家族の朝食も用意し、朝の日課であるランニングに出る。そして制服に着替え学園まで徒歩で向かうのだ。余裕を持った登校をし学園についた透は、朝練の支度を始める。マネージャーのいないテニス部を支えている透は、ドリンクやタオル、他の部員のジャージ等の繕いすらも行う。それを終え、きちんと揃えて棚の上に置き、自分はストレッチを始める。それと同じくらいに跡部と樺地もやってくるのだ。 「いつもながら早いな」 「まあなあ、誰かさんが弁当を作れって言わなきゃなあ」 「おはよう、ございます…」 「あ、樺地おはよう」 「ぐっ…」 毎朝妻よろしく弁当を作っていた透だが、それは跡部の我が侭にあった。今ではレギュラー全員が食べている為、透の弁当が食べたければレギュラーになれ、とまで言われている。更に跡部が弁当をこれ見よがしに見せつけ、赤い顔でにやにやしながら食べるものだから、平部員たちの憧れの弁当となっていた。 「おはようさん」 「おはよう侑士」 それからレギュラーが全員集まり、朝練が始まった。少しして、跡部は透の違和感に気がついた。久しぶりに彼の眼力がまともに働いた瞬間である。 「透、顔が赤いぜ、疲れたか?」 「え…や、全然大丈夫だけど」 「汗もすげえし、風邪でも引いたんじゃねえか?」 「風邪ねえ、おれ引いた事ないけど」 言葉通り、透は生まれてこの方、風邪はおろか病院にかかった事はなかった。だからこそ自分が現在どんな状況なのか、全く理解してなかったのだ。 「おーい透ー!」 「ん?どーしたー」 「ジャージ切れちった」 「あーもう、仕方ないなあ…ちょっと待ってろ」 向日が破けたジャージを手に透たちの方へ歩いてくる。透はそのジャージを見てため息を吐くと、ソーイングセットを取りに部室へと向かった。その途中、足元がふらつき体が傾く。 「え…」 「透!!」 透が意識を飛ばす前に見えたのは、焦った様子でこちらに走ってくる跡部だった。 → |