1 「偵察だ、偵察に行くぞ」 「は?」 跡部が突然なのはほぼいつも通りだが、ここまで唐突なのはあっただろうかと透は考えた。だが跡部はそんな透に、少しも考える時間を与えず、紙袋を取り出した。 「…これ何?」 「青学の制服だ。素材、校章、ボタン…全てにおいて完璧なまでに複製させている」 「うわあ時間とお金の無駄遣い」 紙袋の中からは、透のサイズにぴったりな学ランが現れた。確かに何度か見た事のある制服に似ているが、何もここまでする必要はないだろうに。透はひっそりと溜め息を吐いた。 「ほら何してやがる、さっさと着ねえか!」 「ああもう…わかったよ、付き合えばいいんだろ…」 結局跡部に付き合ってやる自分を内心で褒めながら、透は今着ていた氷帝の制服を脱ぎ始めた。その透を見て、跡部は驚いたのか目を見開く。 「なっ、ば…!」 「何?」 「ぬ、脱ぐな!」 「…はあ?え、なんで?」 「…あっち向いてるから、そしたら着替えやがれ」 「…はいはい」 要するに、跡部は目の前で着替え始めた透に照れたらしい。幼い頃より生活してきているのに何を今更、と透は再度溜め息を吐いた。 「ふう、よし…景吾、着替えたぞ」 「俺様を待たせやがって…行くぜ」 「え、樺地は?」 「あーん?樺地は置いてく、偵察に行くのは俺とお前だけだぜ」 「まじで…」 それはつまり、跡部のストッパーがいないという事であり、面倒が増えるという事である。透はただただ肩を落とすしかなかった。 → |