意識の遠くでチャイムが聞こえたような気がした。透の意識は徐々に浮上し、そしてようやく覚醒した。


「んー…?どこだ、ここ…」
「保健室だ」
「あ?…景吾じゃん」
「馬鹿野郎、辛いなら辛いって言いやがれ」
「…待っておれ話が読めない」


ベッドから起き上がり頭を捻る透に、跡部はふっと微笑むと説明を始めた。


「ろくに休憩も水分摂取もしねえ、その上朝とは言え炎天下での激しい運動…脱水症状に軽い風邪の併発だな」
「えええ、おれどっちも初めてだけど」
「プラスストレス、だそうだ」
「ストレス?わかんねえ…」
「溜め込むのはよくねえんだとよ、とりあえずしばらく休んでけ」
「え、授業は」
「熱あんだよ馬鹿。それから今日の部活も休めよ」
「…やだ」
「(やだって…やだって可愛いじゃねえかちくしょう!!)」
「だっておれが行かなきゃお前らタオルの場所とかドリンクの作り方とか知らねえだろ」
「…そこはなんとかなんだろ」
「それに洗濯とか、」
「…いいからお前は今日は休んでろ、あれだ、母の日ってやつだ」
「おれ男だけど」
「いいんだよ、今日だけは」
「…わかった、もし何かあったら、」


最後まで心配そうな透に、跡部は大丈夫だと言って授業に戻った。そして透が最も気にしていた部活の時間が始まった。



***


「はー…あっちいー、タオルどこ?」
「ん?そういやどこやったっけ」
「おい、こっちのコート整備終わってねーぞ」
「このボール、割れてますね…」
「ドリンク、です」
「甘っ!これじゃ余計喉乾くっつの」
「あっジャージ破けた!」
「ラケットのガットが切れて、」
「洗濯終わってねーぞー」


部活が始まってすぐに問題が起こり始めた。いつも放課後も誰よりも早く来る透がやっておく事が出来てなかったのだ。いつも透に頼りっぱなしだった為、彼にやってもらっていた事は皆何も出来なかった。

「…情けねえな」
「跡部、」
「俺たちは、いつも透に支えてもらってんだ」
「せやな、無理ばっかさせとった」
「もっと俺たちは協力しねえとなんねえ…透の為にも」
「せや「え、いいよそんなん」…なんでお前おんねん」


跡部と忍足の会話に突如透が入った。その顔色はまだ少し悪く、暗い。だが透は辺りを見回すと、ドリンクを作り出した。


「え、透先輩?!」
「ほら、これなら丁度いいんじゃね?」
「…あ、ほんとだ」


更に部室の戸棚からタオルを出し、自前のソーイングセットで破けたジャージを手直しした。


滞っていた仕事を一通り終えると、透は生き生きした顔でまた辺りを見回した。その顔はいつもと同じ透だった。


「透、なんで…」
「ごめんな景吾、やっぱおれこうやってる方が合ってるわ」
「…そうか、わかった」
「でも今度からはおれだけじゃなくって皆でやろう、じゃなきゃ皆いつまでも親離れ出来ねえし」


そう言って透は笑った。それを見ていた誰かが、ぽつりと母さんみたいだと呟いた。










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