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かみさまって結構みんな安易に使う言葉だと思う。わたしだってその一人だ。都合のいい時はかみさまありがとうなんて言って、都合が悪くなったらかみさまなんていないし、と言う。大体かみさまの扱いなんてそんな感じだ。
だからわたしが遅刻しそうになって、かみさまたすけて!なんて願っても、無情にもわたしの目の前に仁王立ちする風紀委員の壁は越えられなかった。
「ち、ちくしょおおおおおうううう…」
「みょうじ、女子がそんな言葉遣いでどうする」
「斎藤くん…今は神様の次に君が憎い…」
「そうか。だが遅刻は俺でも神のせいでもない」
「そっすね…」
みょうじ失点、と斎藤くんが名簿に書き込んでいく。今までの無遅刻がぱあになった。やっぱりかみさまなんていないんだ。
「それからスカートの丈、頭髪、化粧、ピアス」
「えっ、あ、いやあこれは…」
「今すぐ直せ、土方先生もあんたには手を焼いていて困っている」
さいですか。土方先生は恐い、斎藤くんも恐い。でもおしゃれだし少しでも可愛くみられたいわたしの女心は直す事を嫌がった。すると斎藤くんは眉根を寄せてわたしの腰に手を伸ばした。
「ならば実力行使をするまでだ」
「ええええ、ちょっ…ま…!」
斎藤くんがわたしのブレザーを捲り上げ、くるくると三回は折っていたスカートへと手を伸ばす。流石にこれは、スカート丈云々よりも、恥ずかしい…!
「さ、斎藤くん!はずかしい、よっ…」
「何を恥じて…はっ、お、俺は何を…!?」
わたしがそう言うと、斎藤くんは顔を真っ赤にしながらスカートから手を離した。先程までの勢いが嘘のように、斎藤くんは真っ赤な顔でわたしに謝ってくる。
「す、すまなかった…!その、決していかがわしい気持ちではなく…」
「いやらしいなあ、はじめ君は」
「え」
「っ総司!」
「見ちゃった、嫌がる女の子のスカートに白昼堂々、校門で手を伸ばすはじめ君」
いつのまに現れたのやら、わたしの後ろには沖田くんが立っていた。その顔はにやにやとした厭らしい笑みが張り付いている。というか…沖田くんの言っていることはあながち間違ってはいないけど、どうなんだろうか。斎藤くんはその言葉を聞いて石のように固まった。
「これって、どうなのかなあ?」
「しゃ、写真?沖田くんいつからいたの!?」
「なまえちゃんがはじめ君に憎いって言ってた辺り」
「ほぼ最初から!?」
その時、SHRの始まりを告げる予鈴が鳴った。担任の先生が来る前に席に着ければ、今なら遅刻じゃなくなるかもしれない…!幸いにも、担任の永倉先生はいつもSHRに来るのは遅いのだ。
…もしかして、かみさまはわたしに微笑みかけてる?
「ね、はじめ君。この写真、どうしよっか」
「っ…総司、それは、消せ」
「ええ?ただで?それじゃあ僕に得がないじゃない」
「……何が望みだ」
「うーん…あ、今日の僕となまえちゃんの遅刻取消とか」
「それは出来ん、遅刻はいかなる理由があろうとも…」
「土方先生に見せちゃおっかなあ」
「……っ」
おお、沖田くんがすごい優勢に立っている。斎藤くんの目はゆらゆらといつもじゃ考えられないくらいに揺れていて、動揺を隠しきれていない。そんな斎藤くんを見て、沖田くんはわたしの手を取った。
「じゃ、後よろしくね!」
「うわっ…!」
「ま、待て!総司、みょうじ!!」
後ろから斎藤くんの声が聞こえてもわたしと沖田くんは走って走って走り続けた。
今日のかみさまはわたしに味方しているらしい!
「ありがとね沖田くん、助かったよー…」
「僕も面白いの見れたし別にいいよ」
そして教室のドアに手をかけたその時、同じタイミングでそのドアが横に引いた。そこに立っていたのは、鬼のような、いやむしろ鬼そのものの形相をした土方先生だった。
「よお…総司にみょうじ、遅かったじゃねえか」
「ひっ、土方先生!?永倉先生は!?」
「今日は休みだ。…残念だったなあ?」
「…なあんだ、捕まっちゃったか」
「ひ、ひいいいいごめんなさいごめんなさい!」
結局その後、斎藤くんも加わってわたしと沖田くんはこってりと怒られたのだった。
…やっぱり、かみさまなんていないんだ!