わたしと音也は同じ孤児院で育って、幼い頃からずっと一緒だった。高校だって、歌うのが大好きな音也に曲を作りたくて同じ早乙女学園に入ったくらいだ。
わたしは小さい時から音也が好きで、でも音也にとってわたしはただの幼なじみ。それがどうしようもなく、もどかしかった。





「……、どうかしましたか。先程から手が止まっていますが」
「えっ、ああ!ごめんね一ノ瀬くん、大丈夫大丈夫!」
「…音也、ですか」
「………」


わたしたちの視線の先には、音也と、七海さんの姿があった。音也の顔は今までないくらいの笑顔で、なんとなく、七海さんの事が好きなんだなあと思った。


「…ごめんね、せっかく時間作ってもらってるのに!ほら、続きやろ!」
「勉強はいつだって出来ます。
ですが…みょうじ君は今、辛いのではないですか?」
「そんな事、ないよ」
「………」


一ノ瀬くんの言っている事は確かにその通りだ。わたしは今、とても辛い。悲しい。痛い。でもそれは誰にも言えなくて、だから苦しい。


「あっ、なまえにトキヤ!」
「こんにちは、一ノ瀬さん、みょうじさん」
「こんにちは、七海君。…音也、静かにしてください。勉強中です。
それからAクラスの貴方がSクラスに断りもなく入らないでください」
「ええ、でもなまえはいるじゃん」
「みょうじ君はいいんです、音也と違って静かですから」
「何それ!七海もなんか言ってやってよー」
「え、えっと…」


音也の隣にいる七海さんが視線をさ迷わせた。その視線は向かいあっていたわたしと一ノ瀬くんに向くと、七海さんは可愛らしい顔を一瞬曇らせた。ああそうか、七海さんは、一ノ瀬くんが好きなんだ。


「わ、私は…」
「音也、七海さんを困らせないでよ」
「ご、ごめん七海…」
「そんな…!一十木くんは何も悪くないです」
「違うよ七海さん、音也は悪い」
「え、やっぱり俺悪い!?」
「ええ、だから音也は帰ってください。」


一ノ瀬くんはそう静かに言うと、音也たちの方へ向けていた顔をまたわたしに向けた。


「あっ…」
「……あのさ一ノ瀬くん、わたしも戻るよ」
「気にしなくていいですよ、私も時間がありますから」
「ううん、音也来て集中力切れたし…区切りもいいから」
「そうですか…」
「なんだよそれっ」
「ありがとね、一ノ瀬くん」
「いえ、どういたしまして」


わたしは勉強道具を鞄に詰め始めた。小さくて聞こえにくかったけど、確かに聞こえたあの声は七海さんだった。やっぱり一ノ瀬くんが好きなんだ。


「じゃあね、一ノ瀬くん、七海さん」
「トキヤ、七海、またね!」
「ええ、また」
「はい、お二人共また明日」


音也と共にSクラスを出た時、わたしは七海さんがにこやかな笑顔で一ノ瀬くんに話かけているのを見た。


「…やっぱり、七海ってトキヤが好きなのかなあ…」
「え?」
「ううん、なんでもない」
「………あっそ」


ふと聞こえた音也の呟き。今日もわたしは聞こえないふりをする。





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