過去拍手お礼文(11/10/31〜11/11/20)
歩く時、こつこつと響く音が好き。手を叩いた時の弾むような音も好き。お腹が空いてぐうって鳴った恥ずかしい音も好き。
「わたし、やっぱり音楽が好きだなあ」
「なんだよそれ、すげー今更じゃね?」
「いやいや、思い返してみると染々そう思ったわけよ」
「ふーん。つうかその腹の音いい加減止めろよ!」
「いやですう」
わたしの鳴りっぱなしのお腹の音をBGMに、わたしと翔は曲作りに励んでいた。ああいいなあ、お腹の音。不安定でいつなるかわからなくてわくわくする。
「お前なあ…普通女なら気にするんじゃねえの?」
「しないのがわたし、それこそ今更じゃん」
「…まあそれもそうかもな」
それで納得する翔はきっとわたしを女として見ていないんだろうな。いいけどね、気にしないけどね。だってわたしたちはただのパートナーだから。
「ねえ、ここ、こんな感じでどうよ」
「んー…悪くねえけど、もっとアップテンポにしようぜ」
「じゃあアンダンテ」
「馬鹿、アレグロだろ」
ごん、と翔に頭を小突かれた。痛い。ちょっとボケただけじゃんか。わたしも翔を小突き返す。すかさず翔が反撃に転じた時、わたし以外のお腹の音が鳴った。
「………」
「そうかい、翔ちゃんもお腹が空いたかい」
「うるさいっ、お前のが移ったんだ馬鹿!」
「はいはいわかったわかった。翔のお腹のメロディも聞いてたいけど、何か食べに行こうか」
「…そうだな、何か食いに行こうぜ」
わたしは机いっぱいに広がった譜面をかき集め、立ち上がった。少し厚みのあるそれは、ほんの少しだけ重みを感じる。
「あ、それ持ってやる」
「え?いやいいよ、軽いし」
「馬鹿、女にばっか持たせてられるか」
女。翔がわたしを女って言った。わ、なんだこれ顔が、体が、熱くなってきた。うわ、うわあ。
「へ、変に意識すんなよ!俺は一般的な事をだな…」
目の前の真っ赤な翔が何か言っている、けどわたしには聞こえない。なんでこんな気持ちになるんだろう。
わたしにはまだわからない。