※not夢
彼は馬鹿みたいにいつも笑顔だった。仏頂面で、あまり人当たりもいいとは言えない私とはまるで反対。必ず誰かが傍にいて、輪の中心にいる存在と言える人物だった。
そんな彼も、泣きたくなる事があるらしい。
「今日はどうしたんですか」
「ん、特になんでもないんだ、ただトキヤに甘えたくなっちゃっただけだよ?」
「嘘が下手ですね、相変わらず」
「…そうかにゃあ」
「ええ、とても」
私がそう言うと、私の胸に飛び込んで彼はぐずぐず泣き出した。全く困った兄を持ったものだ、私はしゃくり上げる彼の背中を擦ってやる。
「トキヤには、いっつも迷惑ばっかだね」
「わかっているなら自重してください」
泣いたかと思えばすぐに笑う。私には彼の精神が理解出来ない。
「…ね、トキヤ」
「なんです?」
「キス、してもいい?」
「…ご自由に」
彼の子供のような唇を、額から首筋へと落とされる。シャツを少し開かれて、胸元にもキスをする彼を見ると、目があった。
「トキヤにキスする時、一番好きな場所があるんだけど…知ってた?」
「…知る訳ないでしょう」
「…ここ」
彼はそう言うと私の前に跪き、私の足を手に取った。そのまま体を屈め、爪先にキスを落とす。
「んっ、」
「ここがね、一番トキヤが悦ぶとこ」
「馬鹿な、事を」
さっきまで泣いていた人間が、こうも意地悪く笑えるだろうか。否、彼ならばあり得るのだろう。
「…爪先にキスって、服従の証みたいで好きなんだ」
そう言って微笑んだ彼に、何かが音を立てて崩れていったような気がした。
企画「HAYATO≠企画」さまに提出