※中学生時、捏造




わたしはとある中学校に通う少女Gくらいの存在だ。モブ中のモブ、名前なんてあって無きもの。アニメで表せばエンディングのテロップにも乗らず、ガヤにも参加出来ない、その程度である。
そんなわたしでも得意な事があったり、同じモブ友と一緒に遊んだりと色々と忙しい日々を送っていたりもする。人気者でもなく、主人公にもなれないわたしたちだって人生を謳歌しているのだ。


「おいおい、お前ばっかだなあ!」
「えー…そう?」
「そうだって!なあ?」
「うんうん、音也ってば馬鹿みたいに歌い過ぎなんだよー」
「だってさ、楽しかったりしたら歌いたくならない?」
「ならない!」


ああまた同じクラスの中心人物たちが騒いでいる。きっと彼らの中で主人公はあのよく歌っている彼、一十木くんだろう。明るいし、人望もあるし、何よりルックスも主人公にぴったり。そんな彼らを一瞥して、わたしは机に向き直った。わたしの目の前には五線譜が引かれたノートがあり、もう何フレーズも書き込まれている。これがわたしの唯一と言ってもいい特技である作曲だ。コンクールでも最優秀賞を取った事もあるし、これだけは誰にも負けない自信がある。
ただ将来作曲家になりたいという訳でもないし、誰かの為に作っている訳でもない。自己満足でしかないと言ってもいい。


「んー、んっんー…いや、ららーかな」


教室の片隅で一人呟きながら書き込み、曲を作っていく。今作っているのは明るいポップ調の曲。一十木くんを見てたらなんとなく思いついたものだ。でも何故か、いつもよりメロディが自分の中から溢れてくる。不思議な気分だ。


「たーたっ、らららー」
「わ、これすご!」
「え、あ、い…一十木くん!?」


夢中になって書き込んでいたからか、わたしは目の前に現れた一十木くんに気付けなかった。一十木くんはわたしの手元のノートを覗き込み、嬉しそうに笑う。


「ねえ、これ、君が書いたの?」
「は、はい」
「すっげー!これ歌ってもいい!?」
「え…えええ!?」


あ、あり得ない…モブキャラのわたしに一十木くんが話かけてくれただけじゃ無く、わたしの曲を歌いたい、なんて。余りにも驚いたものだから、ガラにもなく大きな声を出してしまった。その瞬間、クラス中の視線がわたしたちに集まる。こんなに視線が向けられたのなんて初めてに近いわたしは、膝の上で手を握りしめて俯いた。


「あ…駄目だった?」
「や、そう、じゃなくて…えっと…」
「もしかして他に歌う人いるとか…」
「い、いないよ!これは一十木くんに…あ…」


わたしってば馬鹿なのか。なんで話した事もない一十木くんの為に作ったとか…確かにイメージは彼だけども。一十木くんだって見知らぬ女子にこんな事言われたら絶対に引くに決まってる。わたしはそっと上目で一十木くんを見た。


「…俺に?」


ほら、驚いてる。当たり前だよね、気持ち悪いはずだもの。今謝れば許してくれるだろうか。わたしは思い切って顔を上げた。


「ご、ごめんなさ…」
「うわあ、すっげー嬉しい!こんないい曲俺の為に作ってくれたの!?」
「…へ?」
「じゃあ尚更歌わせてよ!」
「気持ち、悪くないの?知らない女子がこんな事、してて…」
「なんで?それに俺、君の事知ってるよ」
「は、え?嘘…」
「前作曲のコンクールで表彰されてたみょうじなまえ、違った?」
「そう、だけど」


そう言うと一十木くんはにっこり、それはもうお日様のように笑った。彼に呼ばれた自分の名前が、まるで自分のものじゃないみたいで。こんなに素敵な名前だったっけ、なんて思えるくらいだ。


「綺麗な響きだよな、みょうじの名前って」
「あ、ありがと…う」


熱い、顔が熱いよ一十木くん。そんなきらきらした顔でわたしを見ないで欲しい。この気持ちに名前をつけるなら、恋なのだろうか。わたしなんかが、恋をしていいのだろうか。


「ねえ、やっぱりこの曲歌いたい!」
「お、お願い…します…」


待ちきれないと言うようにこの場で歌い出した一十木くんは、アイドルみたいでかっこよくて。わたしはそんな彼から目が離せなかった。




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