これは恋とか、そんなんじゃない。わたしにとって恋はもっとこう…手と手が触れ合ってどきん!みたいなやつとか、一晩中好きな人を考えてたりする事を言うからだ。だから例え誰がなんて言おうとこれはただの心不全に決まっている。


「はあ?だからそれが恋じゃないって?」
「うん、恋じゃない」
「お前…そこまで馬鹿だったのかよ…」


わたしはこの心不全について、幼なじみの翔に聞いてみた。だけど答えは恋だろう、ただそれだけ。皆口を揃えてそう言うけど、わたしは絶対に違うと思う。
だって相手はあのトキヤだし、手が触れ合ったってときめかないし。ただ…ただトキヤといると、こう、ほわあって感じになって少し心臓の動きが早くなって。目で追ったり、可愛く見られたいなあって思うだけだ。


「要は好きなんだろ、トキヤが」
「だから違うってば!」
「いや客観的に見てもそうとしか見えねえけど」


わたしが否定するのはトキヤが根も葉も無い噂で迷惑するのを防ぐため。断じてそんな気持ちだと指摘されて恥ずかしいから、では、ない。


「ほんっと、お前って強情だよな」
「…だって、違うから」
「認めりゃ楽じゃん」
「だ、だからわたしはトキヤなんて、」
「私が、なんです?」


びっくりして降り返れば、そこにはトキヤがいた。わたしの心臓がどくどくと早く動き出し、顔に熱が集まっていく。


「ち、違うから!なんでもないから、ね!」
「私の名前が聞こえたような気がしましたが」
「それはほら、トキヤって凄いよねって話してたの!」
「何をそんなに慌てているんです?」
「あ、あわててなんかにゃ…ないよ!」
「ほう」
「………」


翔は苦笑をしながらわたしたちを見守っている。トキヤは…うわあ、なんかトキヤの顔が見れない。前を向けない、なんか今トキヤを見たら爆発する気がする。


「なまえ」


やめてやめて。わたしの名前を呼ばないで。トキヤが口にするだけで、わたしの名前は何か特別なものになったような気がしてならない。どうして、トキヤだけ。
まさかこれが恋なのか。ううん違う、これは恋じゃない。だってわたしたちは恋愛は禁止されているんだから。わたしは思い切って顔を上げた。恋じゃないなら、トキヤの顔を見たって大丈夫なはずだから。


「!!」
「どうかしましたか」


どうしてトキヤの顔がこんなにきらきらして見えるの。わたしの目はついにおかしくなったらしい。なんだろう、胸も苦しくなってきた。身体中が、あつい。


「なまえ、体調でも悪いなら保健室に…」
「ちが、うの」
「ですが…」
「そんなんじゃ…ないの」
「とてもそうは見えませんよ」
「こい、じゃない、から」
「…は?」


認めりゃ楽じゃん。どうして翔の言葉を思い出すの。認めれば、苦しくなくなるのか。でもそれはわたしたちにとって重荷でしかない。だけど苦しくて苦しくて、もう頭はパンクしそう。


「わたしは、トキヤが好き」
「な、」
「…ついに認めたな」
「え、あ、わたし…!」


ぽろっと、わたしの口からはそう溢れ出ていた。だけどわたしの中には、後悔なんて有りはしなかった。だってとてもすっきりしたから。最初から認めてしまえば楽だったんだ。


「ごめん!」
「っ、待ちなさい!」


後ろからトキヤの声が聞こえたけど、駄目だ、止まれない。まだ顔は熱いけど、もう心にもやもやしたものはなかった。

わたしはトキヤが、好きなんだ。




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