※まじかるイチコネタバレ
今日はネットラジオで放送するドラマの撮影の日。わたしがやるのは男の子の役らしく、ずっと前から緊張しっぱなしだ。だけど一番の不安はこの台本。皆が女の子役をやるという点で、トキヤなんてどうするんだろうって次元になっている。
「うわあ、皆可愛いねえ」
現場に着くと、既に皆着替えを終えて台本を読み直していた。わたしも着替えてあるし、皆の元に急ぐ。
「わ、誰かと思った!」
「音也?可愛いー」
「あは、あんま嬉しくない…でもなまえは、なんていうか…かっこ可愛いな」
「そう?」
わたしは自分の姿を思い出してみる。短髪のウィッグに、Tシャツとハーフパンツ。まあラフ過ぎる気もするけど、男の子らしいと言えばらしい。
「あれ…トキヤは?」
「え、あ、そう言えばいないなあ」
「一ノ瀬なら、まだ楽屋だ」
「わあっ、なまえちゃん可愛いですねぇ」
「おう、ま、ちーっと小さいけどな!」
「おチビちゃんとあまり変わらないけどね、可愛いよレディ」
「とっても似合ってます、プリンセス」
「皆ありがと!」
なんだろう、皆とっても可愛くてセクシーだ。わたしよりも女の子らしい、というかなんというか。
「もうすぐ撮影始まるのに…トキヤどうしたんだろ?」
「わたし迎えに行って来るよ」
「頼む、時間も無いしな」
「うん、待ってて」
トキヤが時間に遅れるなんて、どうしたんだろうか。わたしはトキヤの楽屋に急いだ。
「トキヤ?いる?」
「…なまえ、ですか」
「撮影始まるよ、早く行こう」
「………………ええ」
たっぷりと間を置いた後、トキヤはしぶしぶと言うように楽屋から出てくる。その姿はなんとも言えないもので、わたしは言葉につまった。
「に、似合ってるね!」
「…ありがとうございます」
「三つ編みとか眼鏡とかセーラー服とか、こう…マニアのツボをついてるし!」
「…ありがとうございます」
「…えっと、えっと」
「……なまえも、似合ってますよ」
「え、うん、ありがとう!」
それからわたしたちは歩き出したんだけど、トキヤの足取りは重かった。役が役だし仕方ないけれど、なんだろう、この暗さ。
「…トキヤは、このドラマ嫌?」
「……いいえ、仕事ですから」
「でもなんか嫌そう、いつもみたいに割り切れてないよ」
「…そうですね、私らしくもない」
「そうじゃなくて、どんな仕事も一生懸命やるのがトキヤでしょ」
「………」
「皆も頑張るんだから、頑張ろう!」
わたしがそう言うと、トキヤは微笑んだ。それからいつものトキヤのように、自信たっぷり、という顔になってわたしの頭を撫でた。
「まさかなまえに励まされるとは」
「何よその言い方」
「いいえ何も?ですが…ありがとうございます」
「…うん」
そして現場に戻ったわたしは、トキヤの壮絶な役者魂を見せつけられた。
「シャイニングプリンセスチェンジ・ドレスアップ!」
「愛ある限り、歌います!
ミュージックプリンセス・マジカルイチコ!見参!」