トキヤはちょっと難しくても簡単に歌えそうだから、もっと難しく。レンはもう少し押していって勢いを付け加えて。翔ちゃんは自分のよさを殺さないように走ってもらう。
わたしはわたしのイメージで曲を膨らませていく。特殊な理由で3人のパートナーになってしまったわけだけど、それはそれで遣り甲斐を感じる。わたしは譜面と向き合い、更に考え出した。


「なまえ」
「…あ、トキヤ」
「これは?」
「卒業オーディション用の曲だよ」
「へえ、いい曲だね」
「うん、すっげーかっこいい!」
「レン、翔ちゃん!」


いつの間にか、わたしの周りにはパートナーの3人がいた。よかった、気に入ってもらえたと、わたしは安堵の表情を浮かべる。


「なあ、俺今これ歌いたい!」
「ええ?でもまだこれ完成形じゃないし…」
「構いませんよ、私も歌ってみたいです」
「だってさ。3対1でなまえの負けだね」
「でも…、うん、わかった!」


言うが早いか、わたしはキーボードを弾き始めた。まだ主旋律以外は決まってもいない、曲とも言えない曲だけど、それでも3人が歌いたいと言ってくれた。わたしはそれだけでよかったのだ。
トキヤがこんな急造で作られた歌を、完璧なピッチとリズムで歌いあげる。レンがわたしに目配せしながら色っぽく、情熱的に歌う。翔ちゃんは誰よりも楽し気に、それでいて誰よりもかっこよく決める。不思議だと思った。まだ会って数ヶ月しか経っていないわたしたちが、ここまで通じあえるなんて。歌詞なんてめちゃくちゃで、それでも3人の伝えたい物は同じだとわかる。


「…ふう、レン、勝手に先走らないでください」
「ごめんよイッチー、なまえの歌が気持ちよくてね」
「まっ、俺は楽しかったからよかったけどな」
「わたしも!早くこの曲、完成させたいな」


わたしがそう言えば、3人は笑って、勿論と言うように頷いた。




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -