西くんはぴば!
今日は七夕で、西くんの誕生日だ。なのに生憎の雨で空は曇っている。わたしは西くんの部屋から空を見上げ、深く深く溜め息を吐いた。
「人の部屋で溜め息とかやめろよ」
「だって雨だよ?折角西くんの誕生日で、織姫と彦星が年にたった一回だけ会える日なのに」
わたしがそう言うと、西くんは読んでいた本をベッドに置いて立ち上がった。それからわたしの隣に立つと、窓から外を眺める。
「あーこれじゃその織姫となんたらも会えないかもな」
「彦星!…もう、西くん、自分の誕生日でしょ。同じ日なんだよ、もっと関心とか…」
「あるわけねえじゃん、なまえって馬鹿?」
「…西くんはそう言う人だもんね」
わたしはゆっくりと窓から離れ、キッチンに向かった。冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出して、また部屋に戻る。
「ケーキ買って来たんだよ、食べよ」
「何勝手な事してるわけ?」
なんて言いながらも、西くんはわたしの隣に座ってさっそくケーキを選んでいた。2個しか買ってこなかったけど、そこから西くんは苺の乗ったショートケーキを選んだ。
「ったく…こういう時くらい自分で作るとかしろっつの」
「…作って欲しかったの?」
「……んな事言ってねえだろ」
「はいはい、わかってますよー」
西くんは少しむくれっ面をしながらケーキを食べ始めた。わたしも残ったモンブランを食べる。
「さっきの話、」
「ん?」
「織姫と彦星がなんたらってヤツ」
「うん、どうかした?」
「…普通に考えたら宇宙で会えるだろ」
「え、…うん?」
「こっちじゃ曇って見えなくたって、もっと上に行けば雲なんてねえんだから、…会えるだろ」
これは、西くんが励ましてくれてるって事だろうか。さっきまでむくれたような顔をしていた西くんは、今は苺をフォークでつっつきながら、そんな苺みたいに真っ赤な顔で言った。
「…って、昔、ママが言ってた」
「結局ママなんだね…」
西くんは苺を自分の口にほおり込むと、わたしのモンブランの栗も持っていった。一瞬の事でわたしが何も言えないでいると、西くんは顔をしかめて舌を出した。
「食べ合わせ悪っ…」
「か、勝手に食べておいて…!」
わたしの楽しみを奪った西くんは、そのままわたしの唇も奪って意地悪く笑った。