逃げられないように、彼女を腕の中に閉じ込めた。なまえは最初こそ身動ぎをしていたが、今は大人しくしている。時折私の顎の下で動く為、髪の毛が触れてこそばゆい。
「トキヤくん、どうしたの?嫌な事あった?」
「いえ…ただ君に触れていたいだけです」
抱きしめる力を少し強めると、なまえはおずおずと私の背に手を回してきた。その行為が何ともいじらしく、愛らしい。私は堪らなくなってなまえの額に唇を落とした。
「なんだかトキヤくん、今日は変だね」
「いつもと変わりませんよ」
「そうかなあ」
「ええ、そうですよ」
ただただ抱きしめるだけ、こうして彼女を感じる事で、私は生きている事を実感出来るのだ。いつの間にか、私にとってなまえとは、呼吸をする事以上に大切で大事なものになっていた。
「なまえ、」
「なあに、トキヤくん」
「私の側にいてください、これから先に、何があったとしても」
私が弱くそう呟くと、なまえは優しくもちろん、と言った。