※死ネタ、幸村が厨二病くさいです





見つめる先には何があるんだろうか。あの窓の向こうには、彼女にしか見えない何かがあるのか。俺には全くわからないけど、気になるのは確かだった。その瞳に何を映し、何を思っているのか。ただ俺は知りたいだけだった。


「幸村くん、何見てるの?」
「あ…別に、何も」


気付けば、かれこれ10分以上は彼女を見ていたようだった。隣の席の女子に声をかけられ、ふと意識を戻す。


「…もしかして、みょうじさん?」
「みょうじ?」
「知らないの、あの子よ、みょうじなまえ」


そう言って隣の席の(名前なんてよく知らない)女子は俺が見ていた彼女を指で示した。ああ、あの子はみょうじなまえって言うんだ。


「あの子幽霊みたいだよね、怖くない?」
「…そう?俺はむしろ、」


人の陰口を言う君よりは好きだけど。

そんな言葉をぐっと喉の奥に押し込め、俺は笑顔を作ってみせる。


「いや…落ち着いてるよね、彼女」
「えー?幸村くんって変なのお」


変なのはお前だよ、胸中でそう毒づき、俺はくるりとシャーペンを回した。世の中汚れた人間ばかりだ、つまらない。



***


それから数日後、みょうじなまえが死んだ。なんでも事故にあったのだとか。結局あの日以降、俺は彼女に話し掛けられず、彼女が何を見ていたのかはわからず仕舞いだった。俺が彼女の席から外を見ても、見えるのは指紋だらけの窓に何も変わらないいつものグラウンドだけ。みょうじなまえ、彼女にだけ見える景色がここにはあるのだろうか。


「何もない、変わりはしない。つまらないな」


放課後、誰もいない教室で、俺はぽつりと呟いた。俺の席から彼女の席まで歩き、みょうじのいた場所に腰を掛ける。やはり見える風景は何も変わらなかった。


「何が、見えていたんだろう」
「何も見えてないわ」
「…、みょうじ?」


こんな事はあり得ない、わかっている。なのに、何故か俺はそこにみょうじなまえが存在する事に余り驚きはしなかった。いやむしろ、何の違和感もなく受け入れている。目の前のみょうじの方が驚き、僅かに目を見開いた。


「見えるの?なら何故驚かないの?」
「わからない、なんでだろうね」
「不思議な人なのね、幸村くんって」


そういうと、目の前にいるみょうじなまえは微笑んだ。なんだ、普通の女の子じゃないか。


「みょうじは幽霊?」
「かもしれない。実感なんてないけれど」
「へえ…」


幽霊なんて初めて見たし、元々霊感なんてない俺に幽霊が見える事も不思議な話しだ。俺とみょうじは窓の外を眺めた。


「何も変わらないわ、きっとこれからも」
「奇遇だね、俺もそう思ってた」
「そして"こんな世界、壊れてしまえばいいのに"?」
「部活が全国で優勝したら、ね」
「ぷっ、何それ」


俺は欲張りだから、そう言って再び窓に目を向ける。グラウンドには部活に勤しむ生徒、少し先にはテニスコートも見えた。ああ真田に怒られるかも知れない。まあいいけど。


「みょうじは本当に何も見てなかったの?」
「実際は少し違うわ」
「じゃあ何を見てたんだい、気になってたんだ」
「…ないしょ」
「それじゃあつまらないじゃないか」
「そんなものでしょ、人生なんて」


そう言って、みょうじは窓から離れた。今までくっきり見えていたその姿は、薄ぼんやりと消えていく。


「どこに行くの?」
「わからないわ、多分、遠い所かしら」


そしてみょうじはふわっと靄のように辺りに拡散した。それは色を無くし、空気に溶けていく。俺はその過程を瞬きすらせず見つめ、みょうじを見送った。


それから、一度足りともみょうじなまえが俺の前に現れる事はなかった。




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