※死ネタ





世界が終わった日、あたしはあたしの終わりも見ていた。唐突に終わってしまった日常。あたしの目の前で大きな口を開ける化物を見て、あたしは後悔していた。何も言えなかったなあ、と。
あたしには小学生の時から好きな人がいた。彼はいつも幼なじみの2人と一緒で、その幼なじみである宮本さんが好きで。でもあたしだって彼が好きで、今までずっと無謀な恋をしていた。迫り来る死を覚悟し、あたしは目を閉じる。言えばよかった。閉じた瞼からは涙が流れた。


「うああああ!!」
「え、」


刹那、鈍く低い空気を裂くような音と、この場にいるはずがない彼の声とに、あたしは目を開けた。今にもあたしを食べようとしていた化物は消え、その場には彼が立っていた。


「小室、くん」
「はあっ…無事か…!?」
「…うん」


肩で息をする彼は、右手に血で染まった金属バットを握っていた。多分それで遠くに飛んでいるあの化物を殴り飛ばしたんだろう。小室くん、王子様みたい。あたしを助けてくれた。


「一緒に行こう!」


へたりこんでいたあたしに、小室くんは左手を差し出す。あたしはその手を取ろうとして、止めた。弱々しく首を左右に振り、彼を見上げる。


「ありがとう、小室くん」
「そんな事、」
「でもあたし、…一緒に行けないの」
「な、に言って…!」


あたしは既に噛まれていた。さっきの奴とは違う、別の奴に。あたしだって今まで逃げて来てたからわかる。噛まれたらきっと、あの化物になるんだ。だからあたしは行けない。ごめんね小室くん、だからそんな泣きそうな顔をしないで。


「…んで…なんでだよ!!」
「小室くん、」
「なんで…」
「殺してください」
「何言ってんだよ、そんな事…!」


彼の後ろの方から早く戻って来い、と声がした。多分宮本さんと、他に誰かいるんだろう。きっとここに留まっていれば、あたしは化物となって小室くんを殺すだろう。あるいは化物になったあたしは小室くんに殺される。けど、それは嫌だ。あたしは人として死にたい。そして彼には生きていて欲しい。だからあたしは懇願する。彼の足にすがり、殺してくれと。


「僕には出来ない!みょうじを殺すなんて…」
「お願い、あたしは、人として死にたいの」
「…!!」


あたしがそう言うと、小室くんはバットを両手に持ち、大きく振り上げた。あたしは目を閉じて、最後になるだろう言葉を発した。


「生きていてね、小室くん」
「っ、ああ…必ず…!」


バットが振り下ろされる感覚がわかった。あたしは小室くんの手によって、人として死ねる。こんなに嬉しくて、幸せな事はない。


「好きだったよ、小室く」



***


ぐしゃ、だかなんだかわからない、鈍い音が響いた。僕は今、人を、殺した。ずっとずっと、好きだった子を。


「僕も、好きだった…!」


最後に聞こえた彼女の言葉。生きていて、と、好きだった。勿論生きるさ、君の分まで。僕は頭が潰れ、動かなくなった彼女の胸元から制服のリボンを抜き取って自分のポケットへと入れた。強く強くバットを握りしめ、踵を返す。向かうは生き残る為に共に戦う仲間の元。きっとあいつらと生き残るから、僕が死ぬまで待っていて。




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