今日は最高な一日になるはずだった。

この日はわたしの誕生日だった。16歳になったわたしは、朝友達からのメールで目を覚ました。お誕生日おめでとう、おめでとう、それと同文が何通も来ていて目覚めもよかった。部屋から出てリビングに行けば、お母さんがおはようとおめでとう、と言った。わたしはパジャマ姿のままありがとうと言って、朝食を食べる。お母さんが、今日はお父さんが早く帰って来るわよ、おばあちゃんも来るの、夜はお誕生日会だから早く帰って来てね、と言うから余計に嬉しくなった。ただ今日が金曜日で学校があるという事だけはマイナスだったけど。
でも学校に行けば皆が祝福してくれた。友達がプレゼントをくれた。皆に祝ってもらえる事が嬉しくて嬉しくて、涙目になった所を指摘され、クラス中に笑いが起こった。わたしのスクバは皆からのプレゼントで膨らみ、帰ったら開けようとそっとスクバを撫でた。わたしは楽しみは後に取っておくタイプなのだ。
学校が終わった後、皆がパーティーをやろうと言ってくれたけど、用事があるからと言うと、皆仕方ないよね、じゃあ明日やろうよと言ってくれた。ありがとう、また明日!って告げたわたしは、早く帰ろうと自転車を走らせ、そして、大型トラックに撥ね飛ばされた。



***


「…う、あ、あれ?」


痛いはずなのに痛くない、むしろ何も感じない。あれあれこれはおかしいなと思ったわたしは、ぎゅっと瞑ってた目を開けた。すると目の前に広がったのは、黒い玉がある、どこかの部屋の一室だった。窓の外には東京タワーが見える。


「な、にここ…天国?」

よくよく辺りを見渡せば、人がいたようだ。それも数人。うわああの人胸おっきい。はっ、いかんいかん何を考えてるんだわたしは。


「ねえ、大丈夫?」
「へ、え、あ…はい」


気付けばその人はわたしの目の前にいた。うわあ可愛い。そして彼女は岸本恵と名乗った。彼女によると、これからわたしたちは宇宙人を倒しに行くんだとか。
なんでだろう、今日は最高の一日になるはずだったのに。夢なのかと思ってほっぺをつねってみたが、痛かった。わたしはちっぽけな脳みそをフル活用して事態の整理をはかったが、やはりわたしのキャパシティを軽くオーバーしてしまったようだ。わたしはふと下がっていた視線を上にあげると、壁に寄りかかっている少年と目があった。一瞬でそらされたけど。…なんだなんだ今日は。最高の日のはずなのに、轢かれるわ目反らされるわ。でもあの少年かっこよかったななんて考えていたら、部屋中に歌が流れた。なんだっけこの歌、あ、夏休みのラジオ体操の曲だ。


「何これ…」


そして黒い玉に文字と下手くそなイラストが浮かび上がった。なんだろうこれどういう仕組み?そんな事を思っていると、黒い玉の両サイドが開き、何かの武器らしき物が出てきた。岸本さんがそこからスーツケースみたいな物を2つ持ってくる。


「はいこれ、多分あなたの」
「え」


そのスーツケースには何故だかわたしの名前が書かれていた。開けると中にはスーツのような物が。コスプレみたい。


「それを着るの」
「は、はい」


こういう時は長いものに巻かれろ、いや違うかな、とりあえず言う事を聞いておかなくては。わたしは岸本さんの後をついていき、スーツに着替え始めた。なんだこれきっつい…!ぐ、最近太ったんだよね…と考えながらようやく着込むと、隣で既に着替え終わっていたらしい岸本さんの胸が嫌でも目に入った。悔しいなんて思ってないもんね、わたしにはこれがベストなサイズなの。それから二人で黒い玉の部屋に戻ると、男の人の体が半分消えていた。驚いて声も出せないでいると、わたしの体も消えていく。


「え、わ、やだ…っ」


再び目を開けると、そこはあの部屋ではなく、どこかのアパートの前だった。どうなってるんだろう。なんか誰もいないし。岸本さんも、あの少年も。そんな時、一瞬空気が変わった。ぞわっとした感じ。恐る恐る後ろを振り向くと、そこにいたのはあの黒い玉に写っていた、宇宙人(星人だったっけ)だった。嫌な予感しかしなかった。なんとなく死んじゃうな、みたいな。パーティー楽しみだったのに。やっと結婚出来る年になったのに。怖い形相で飛んできたそれに、わたしは目を瞑った。覚悟は出来てるから、八つ裂きにでもなんでもすればいい。でもわたしの耳に聞こえたのは、ギョーンという何とも間の抜けた音だった。
驚いて目を開ければ、目の前まで迫っていた宇宙人が勢いよく破裂した。体中に体液みたいなのがかかって、気持ち悪い。誰かが助けてくれたんだろうか。辺りを見回すが誰もいない。だけどバチバチっという音が聞こえ、その方を向けば、あの少年が姿を現した。


「…」
「あ、ありがとう」
「は?助けてくれたとか思っちゃってるわけ?」
「え、違うの?」
「ンなわけねえし、ま、いい囮になってくれて有り難かったけど」


囮って…わたしをなんだと思ってるんだろうか。でも安心しきったらしいわたしの腰は抜け、その場にしゃがみこんでしまった。


「っう、でも、あり、がと…っ」
「…」
「わたしきょ、たんじょ、日なのにっ、死ん、死んじゃうかと」
「…」
「ありがと、ねっ」
「…別にどうでもいいんだけど」


そう言って少年はため息を吐いた。そして体液まみれのわたしを見て片方の口角を上げ、手を差し伸ばしてくれた。


「あ、ありがとう」


わたしは彼の手に捕まり、立ち上がりかけた瞬間、その手を払われた。え、と思った時には遅くて、わたしは腰を強かに強打した。(でもあんまり痛くはない)


「その方がお似合いじゃん」


やっぱりわたしは今日、最高の一日にはなれそうにもない。




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -