近すぎたステップ続編





今日は珍しく午後からのバイトで、時刻は21時を回っていた。お腹空いたなあ、お弁当を買っていくお客さんを見送ってそんな事を思った。わたしのバイトしているお店は夜は比較的混まないようで、とにかく暇だ。先輩なんか雑誌読んでるし。くそう、わたしも何か食べようかな、でももうすぐ上がりだしなあ、なんて考えているとお客さんを知らせる音楽が店内に鳴り響く。わたしは疲れた顔を引っ込め、笑顔で挨拶をした。


「いらっしゃいま…あ、」
「え、え、!?」
「こんばんはー」
「こっ、こここここんばんわ!!」


入って来たのは14時のお得意様。この時間にも来るんだ、と思い、ちらっと彼の方を見ると、何故か両手両足を一緒に出しながら歩いていて、ぎこちない。その顔は真っ赤だった。なんだか可愛らしい人だなあ。そしてその人は野菜サラダとおにぎり1つ、それからプリンをレジに持ってきた。


「420円になります」


わたしがそういうと、彼は震えた手で500円玉を取り出す。…今日はお金ぶちまけないんだ、なんて少しだけ笑ってしまった。


「80円のお釣りです」


そしていつも通り彼は募金箱へその80円を入れ、袋に手を伸ばした。だけどその手は持ち手を掴まず、袋の中へと伸びていた。何をしてるんだろう、と見ていると、彼は袋の中から買ったばかりのプリンを取り出してわたしに差し出した。


「い、いつもお疲れさまです…!」
「え、」
「そ、その…、ババババイト頑張ってください!!」


そしてびゅんっと自動ドアに向かって走り、見事その速さに反応仕切れなかったドアにぶつかった。


「…っ!!!」
「だ、大丈夫で、」
「す、すんませんっしたあああああ!」


まるでわたしの言葉を遮るかのように、彼はそれだけ叫んで逃げ出してしまった。わたしの元には彼が残したプリンだけがぽつんと残っている。なんだかそれを見ると自然に笑みが溢れた。


「またお越しくださいませ」


わたしはマニュアル通りの挨拶をそのプリンに向かって呟いた。




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