「いらっしゃ…あ、どうも」
「ど、どどどどどうも!」
わたしのバイト先にいつもこの人は来る。毎日昼間の14時くらいに。お得意様として顔も、いつも買っていく商品も覚えてしまったくらいだ。多分今日も野菜ジュースとミント味のガムを買って行くんだろうな。でも何であの人毎回挙動不審なんだろうか。
「はい、257円になります」
「あ、はい…えっと、あ、わあああ!」
「わっ、大丈夫ですか?」
「す、すんません!(うわあああああ)」
そしてこの人はほぼ高確率でお財布からお金を落とす。今日はまだレジの周りだからマシな方。酷い時は辺り一面にぶちまけるから。それから真っ赤な顔で謝る。
「300円お預かりします、」
わたしももう慣れたもので、片手でぱぱっと打ち込む。ちらっとあの人を見ると、何故かばちっと目が合い、思いきりそらされた。…うわあショック。
「43円のお返しです」
でもわたしはこの人がいい人だって知っているから悪い印象は持たない。だっていつもお釣りが出ると必ず募金していってくれるからだ。今日も丁寧に、優しげな微笑みを浮かべながら募金箱にお釣りを入れていた。うん、優しいな、目そらされたけど。
「…優しいんですね」
「っ、いや、あの…!」
わたしがそう言うと、勢いよくこちらを向き、そしてさっきよりも真っ赤な顔で走り出した。あんまりにも早いもんだから、自動ドアが反応仕切れず、開く前に衝突して尻餅をつく。い、痛い!
「っ、うう…!」
「だ、大丈夫ですか!?」
わたしは急いで彼に近付き、肩に手を回した。店内にいたお客様が何事かと振り返る。彼は右手で額を抑えてわたしを見上げた。
「だ、だいじょぶで…っうわあああ!!」
「え、」
そして開きっぱなしだったドアから飛び出して行った。…え、何それ!
「ってゆーか…速…」
あっという間に見えなくなったあの人はまた明日も来るのだろうか。その光景を見ていたらしい先輩がわたしに声をかけた。
「気付いてあげようよ…」
何にですか、先輩。