※悲恋、捏造
今から2年前、俺はある人に恋をした。その人は俺より3歳年上で、ETUに入りたての俺に優しくしてくれた広報の人。
美人で気立てがよくて、優しくて、それでいて仕事熱心。俺なんてただの選手としてしか見られてないだろうけど、俺の大好きな人。
それから3ヶ月後、あの人と堺さんが話しているところをよく見かけるようになった。日に日に2人の関係が縮まっていくのは目に見えてわかっていった。それから6ヶ月後、堺さんが何かの雑誌を見ていた。
「堺さん、何見てるんスか?」
「、ああ、世良か」
「…ゆびわ?」
「っ見てんじゃねーよ!」
「…誰かに、あげるんスか」
「……、まあな」
そう言って堺さんは頬を掻いた。俺はきらきらした指輪がたくさん載っている雑誌を見る。
「あの、じゃあ俺、行くッス」
「…待て」
「…何スか?」
「お前なら、さ…どんなの贈る?」
それを俺に聞くんスか、なんて、そんな事は言えなかった。多分、いやきっと堺さんはあの人にあげるんだろうなあ。大分前にあの人と話した時、青色が好きだと言ってたっけ。「青って綺麗でしょ、だから大好き」そう言われた時、いつか何か贈れたらなあなんて思ったんだ。
「これとか…」
俺が指したのは内側にサファイアが埋め込まれた極々シンプルな指輪。「わたしね、あまりゴテゴテしたの嫌いなの」ああここでもあの人の顔が出てくるんだ。俺は少し顔が歪んだ。
「ああ、…うん、」
「駄目、ッスかね」
「いや、いいんじゃねえか」
ありがとな、と堺さんは言って去っていった。取り残された俺は指輪と、あの人の顔を思い出していた。
それから1週間がたった日の夜。
「あ、」
「あ、世良くん」
「えっと、仕事ッスか?」
「うん、ちょっと残しちゃってね…」
「お疲れッス」
「世良くんこそお疲れさま」
「、あ」
「?どうかした?」
あの人のパソコンを打つ手が止まった。その左の薬指には、あの日、俺が選んだ指輪がはまっていた。
「それ、」
「あ、これ?」
俺が見ているものに気付いたらしく、彼女は左手を口元に持っていき微笑んだ。
「凄く、似合ってるッス」
「ありがとう、わたしも凄く気に入ってるんだ」
それ選んだの俺なんスよ、そう言えたらどれだけ楽になるのだろうか。俺はいたたまれなくなって彼女の前から走り去った。「世良くん!?」驚いたような彼女の声。俺とすれ違った堺さん。上手くいったんスね、よかったよかった。ああ駄目だ、なんだか目の前が霞む。
そして更に2週間後、選手、コーチ、会長、広報…全員に招待状が配られた。堺さんとあの人が、結婚、する、らしい。俺は笑って祝福出来るのだろうか。
「ドレス、凄く似合ってます。おめでとう、ござい、ます」
「ありがとう、世良くん」
そして彼女は堺さんの隣で微笑んだ。