ハニーミルクロード続編
「ふう、」
いつもより少し長引いた練習も終わり、俺はロッカールームに戻った。なまえさんから返信がないかと携帯を開くと、メールが1件入っていた。
「、あ!」
「ん?椿、どーした?」
「す、すんません、なんでもないッス!」
なまえさんだ。もういい、とか来てたらどうしよう…いや、駄目だ駄目だ!そんな事ばかり考えてないで早くメールを見なくては!
――やっとお返事くれたね。
練習終わった頃にそっちに行きます、待っててね。
「え!?」
思いもよらない返信に驚いて大きな声を出してしまった。同じロッカールームにいた皆の視線が俺に突き刺さる。
「バッキー、例の彼女かい?」
「え、椿彼女いんの!?」
「あ、いやそうじゃないんスけど…すんません、俺、もう行きます!」
「え!?」
「行ってらっしゃい、バッキー」
俺は荷物を掴み、ユニフォームのまま飛び出した。
――いまどこにいますか
変換も出来ていないメールを送って、クラブハウスの中を走る。1分もしない内に返信が来た。
――入口の所にいるよ。
「あ、コラッ、椿くん!廊下走らない!」
「すんません急いでるんで!」
返信を見て俺は更にスピードをあげて走っていた。途中で有里さんに怒鳴られたけどそれどころではない。有里さんには悪いけど今はなまえさんが最優先なのだから。出口から飛び出した俺の目に入ってきたのは、大好きななまえさんの後ろ姿。
「なまえさん!!」
「椿くん」
「待たせてしまってすみません!」
「ううん、大丈夫。それに椿くん、だいぶ急いで来てくれたみたいだし」
そう言ってなまえさんは息の乱れた俺を見て笑った。
「あ…っ」
「ユニフォームのままなんだもん」
「す、すんません…今着替えて」
「いいよ、そこの公園でいい?」
「はい、…じゃあ行きましょうか」
ETUのクラブハウスから公園はすぐそことはいえ、歩くことにはなる。その間、俺はなまえさんに声をかけられずにいた。何も話さず、少し歩く。そうしてすぐ小さな公園にたどり着いた。
なまえさんはブランコに向かい、腰掛けた。
「椿くんも座らない?」
「あ、はい」
俺もなまえさんの隣に腰を掛ける。ギイギイと少し揺れるブランコに座り、俺は地面の一点を見つめた。話さなきゃ。なまえさんにちゃんと伝えないと。そう思ってはいるけれど、中々口が開かない。情けない自分に嫌気が差し、太ももの上で手をぎゅっと握る。
「椿くん」
「、っはい!」
「あの時、椿くんが言ってくれた事なんだけどね」
「あ、あれはその」
「嬉しかったよ」
思ってもみなかった。まさかなまえさんが、嬉しい、って言ってくれるなんて。
「でも、」
「!!」
「私怒ってるんだからね」
ああやっぱり!俺がずっと逃げてたからだ…、嫌われて当然だよな…
「椿くんが今日連絡くれなかったら、私乗り込んでたよ」
「すんません!」
「もう謝ってばっかだね、椿くん」
くすくすとなまえさんは笑って言った。
「すんませ、…あ」
「ぷっ、く、ふふふっ」
俺はつい癖でまた謝ってしまい、なまえさんの笑いを誘った。
「ふふ、やっぱり椿くんは面白いね」
3日ぶりに見るなまえさんの笑顔。やっぱり凄く可愛くて、癒される。
「ねえ、椿くん」
「は、はい」
「私の返事、聞きたくない?」
「!! き、聞きたいッス…」
なまえさんはひとしきり笑った後、俺の方を見て言った。
「私も椿くんの事、ずっと見てたよ」
「、…え」
「だから、椿くんと同じ気持ちって事」
「ほ、ほほほ…!」
「ほんとだよ」
そう言ってなまえさんは頬を赤く染めながら微笑んだ。俺はもう何がなんだかわからなくなって、勢いよくブランコから立ち上がった。
「っ俺、なまえさんの事が…!」
「…うん」
「す、す、すすすすす好きでしゅ!!」
か、噛んだ…!俺は絶対に噛んじゃいけないところでミスをしてしまった。こんな時くらいカッコよく決めたいのに…。だけど落ち込んで俯いたそんな俺の手を、なまえさんはそっと握った。
「ありがとう、椿くん。私もね、椿くんの事…好きだよ」
俺はたまらなくなって、ただ感情のままなまえさんをその場で抱き締めた。