髪型一つで女性は変わる、とよくレンが口にしていたが、私にはさして変わりはないように見えた。私がそう言えば、レンだけではなく、一番そういう事に疎そうな音也まで意外そうな顔をした。


「…そんなに意外でしたか」
「うん、やっぱりいつもと違うとこう…どきっとするって言うか…」


音也はそう言って、なまえの方をちら、と見た。今日の彼女は控え目なカラーのバレッタで髪を一つに纏めている。彼女は常に髪型が違うから、私には音也の言うような感情は湧かない。だがいつもより大人っぽく見える彼女には、少しだけ目を引かれた。


「そうそう、イッチーはわかってないなあ」
「余計なお世話です」
「ほら、今のなまえの髪型、グッと来ないかい?」
「は?」
「うなじが見えるだろ」
「う、わ…ほんとだ、なんかどきどきする!」


レンに指摘されて、ふいと視線を滑らせれば、丁度こちらに背を向けているなまえの首筋が見えた。白いその首筋は、すうっと制服の襟に入っていて、何故か目を反らせない。


「ね、なんだかんだ言って、イッチーも見てるじゃないか」
「っ、馬鹿な事言わないでください!」


にやにやと厭らしい視線を私と彼女とに向けているレンを押し退け、私は大股でなまえに近付いた。


「あ、トキヤくん」


私の気配を察知したのか、なまえはこちらを振り返った。私より頭一つ分は小さな彼女は、私を見上げ、小首を傾げた。私はそんな彼女にため息を吐くと、彼女の髪を纏めているバレッタに手を伸ばした。


「今日は冷えます、そんな風に首元を出していると、風邪を引きますよ」
「え、あ、うん。ありがとうっ」
「…いえ」


今日は風が冷たいから心配した、というのもあるが、正直な所、その首筋を誰にも見せたくないという私の勝手な思いが大半であった。実際、音也やレン以外にも、下心が丸わかりな目線で見ている連中もいた。だからこそ、そんな風に純粋な笑顔で感謝されてしまうと、自分の汚さが露見してしまったように感じられる。


「トキヤって意外と…」
「独占欲が強いみたいだねえ」


私は後ろから聞こえた2人の声を無視して、なまえのバレッタを見つめた。



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