「うわあ…」
「…空ばかり見上げてると危険ですよ」
「だって綺麗だよ、トキヤくん」
「はあ、」
雨が上がり、雲が去った空はどこまでも青く広かった。
トキヤは空を見上げて歩くなまえを見て溜め息を吐いた。
「ねえ、トキヤくん」
「なんです?」
「わたし、空、飛びたいなあ」
「…はあ」
また何を突然、というようにトキヤは再度溜め息を吐く。
だがしかし彼女は相変わらずニコニコしながら上を見ていた。
「トキヤくんは飛びたくない?」
「飛びたいなら飛行機にでも乗ればいいでしょう」
「む、トキヤくんには夢がないなあ」
「なくて結構です」
「むう…」
トキヤがそういうと、なまえは唇を尖らせてトキヤの前へ飛び出した。
「っ、なんです突然…危ないでしょう」
「だってトキヤくんがつまんない事言うから!」
「子供ですか君は…」
「子供じゃないよ、トキヤくんと同じ16歳っ」
「ならそれ相応の、」
トキヤの言葉は最後まで紡がれる事は無かった。なぜならなまえが突然叫んだからだ。
「っにじ、虹だあ!」
「は、虹…?」
トキヤはなまえの見ている方向を見る。
そこには七色の橋が掛かっていた。
「あんなにはっきりした虹、久しぶりに見たなあ」
「…ええ、私も」
綺麗だ、そうトキヤは思った。それをきらきらした瞳で見つめる彼女もまた、綺麗だと。
「わたしたち、ラッキーだねっ」
「…そうかもしれません」
「トキヤくん素直じゃなーい」
トキヤは自分でもそう思った。
何故こんな時に気のきいた科白の一つ二つ言えないものだろうか。
例えば、
(君の方が綺麗だ、…なんて)
「トキヤくん?」
「…いえ、なんでもありません」
「そっか、じゃあ帰ろ!」
「ええ、帰りましょう」
だけどただ今は、彼女の隣にいればそれでいいかと思う自分がいた。