フレンと初めてのおつかい





船内を歩いていたファーストネームはたまたまロックスを見かけた。だが彼はため息を吐き、しかもなんだか落ち着かない様子だ。そんな彼を案じたファーストネームは彼に声をかける。


「はあ…」
「どうしたの、ロックス」
「あ、ファーストネームさま」
「ため息吐くと幸せが逃げるんだよ、ってアンジュが言ってた」
「あはは、すみません…」
「何かあったの?」
「実は…」


彼の話によると、コーダが風邪を引いて倒れたのだとか。しかも美味しいプリンが食べたい、などと言っているらしい。作る事自体はロックスも構わない様なのだが、何分材料が足りないらしい。自分はコーダも見てなければならない上、船内には皆クエストに行っていたり出掛けていたりでファーストネーム以外誰も残っていなかったという。それならば、とファーストネームはロックスに自らが行く事を伝えた。


「わたしが行くよ」
「ですがファーストネームさまは市場の事をわからないでしょう?もし悪い人に声でもかけられたら…」
「大丈夫、やり返すから」
「ファーストネームさまに何かあればお嬢様になんと言ったらいいか…」
「じゃあ誰が買い物に行くの?」
「う…仕方ありませんね、これも一種の社会勉強という事にして、お願いします」
「任せて」
「じゃあ今買って来てもらう物をメモしますから、」


「…あれ、今ファーストネームとロックスだけなのかい?」


そこにたった今帰って来たばかりのフレンが現れた。


「フレンさま、丁度よいところに!」
「?」
「お疲れのところ申し訳ないのですが、ファーストネームさまについていってはくださいませんか?」
「別に構わないよ、どこに行くんだい?」
「市場に行くの、プリンの材料を買いに」
「わかった、僕が一緒に行くよ」
「よかった、あ、これがメモです。それからこっちがお金になります」


そう言ってロックスがメモをフレンに、ガルドをファーストネームに手渡した。そして無駄遣いをすると買えなくなりますからね、と釘を刺す。


「わかった、行ってくるね」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、お願いしますね!」


それからロックスは出掛けた2人を見送ってからコーダの元に戻った。



***


「ここが、市場…」
「そうだよ、あ、もしかしてファーストネームはここに来るのは初めて?」
「うん、初めて…人がたくさんいるね、」
「そうだね、迷子にならないようにちゃんとついてきて」
「うん、あ、」


市場に着いたファーストネームは人の多さと活気に驚いていた。だがフレンは大して気にした風もなく目的地へと向かって行く。はぐれないように、と自分より遥かに高い位置にある金色を追いかけていると、すぐ隣を仲のよさそうな親子が歩いていった。


「フレン、」
「なんだい?」
「はぐれないように」


そしてファーストネームはきゅっ、とあの親子の様にフレンの左手と自分の右手を合わせた。フレンはその繋がれた手を見つめ、それからふと微笑み、ファーストネームの手を握り返す。


「そうだね、はぐれないように」
「うん」


そしてまた2人は歩き出した。その手をしっかり握りあったまま。




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