一十木音也は歌う事が大好きな少年だった。どんな時だって歌えたし、歌えば元気が出る。周りの皆が笑顔になる。だから音也は歌が好きだった。


「あ、」


音也には憧れの人がいた。それは一方的だけど、それでも音也はその人物が歌う姿が好きだった。九条千早、彼女を知ったのは最近で、最初は学校のクラスメイトが話していたのを聞いただけの存在。


「やっぱ、凄いなあ…」


たまたま立ち寄った書店で、千早が表紙の雑誌を見つけた。とろけそうな笑顔をいっぱいに、こちらへと瞳を向ける彼女に、音也の胸は高鳴る。

初めて彼女を知った日、初めて彼女の歌を聞いたあの日。音也はなんとも不思議な感情に溺れた。歌声、歌詞、メロディ。そんなものに惹かれたのではなく、九条千早の力強い瞳に惹かれたのだ。世間からは七光りだ、いくら努力したところで九条千鶴には敵わない、なんて言われている彼女が。そんな環境をものともせず、自分の意思を持ち、伝えようとしている。少なくとも、音也にはそう思えた。


「俺もいつか…」


こんな風に、何かを伝えられるアイドルになれたなら。九条千早のようになれたなら。音也は人知れず拳を握ると、雑誌を戻して踵を返す。


(目指すはアイドル!その先もアイドル!それから、頑張って追いつきたい…!)


いつかなんて言わせはしない。音也は走り出した。誰にも負けないアイドルになるために。








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